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 日本航空(JAL)は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、ニコン、オーウエルと共同で、機体外板の塗膜上にサメの肌を模した「リブレット加工」を施した航空機による飛行試験を実施し、所望の耐久性を確認したと2023年2月28日に発表した(図1)。このリブレットは、微細な三角形の凹凸構造をしている(図2)。同加工による空気との摩擦抵抗低減による燃費改善および二酸化炭素(CO2)排出量削減を目指す。

図1 飛行試験を実施した「ボーイング737-800」型機
図1 飛行試験を実施した「ボーイング737-800」型機
(写真:日経クロステック)
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図2 リブレットの顕微鏡拡大写真
図2 リブレットの顕微鏡拡大写真
今回のリブレット加工では高さ50μm、ピッチ100μmの凹凸を設けた。(出所:JAL)
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 飛行中の機体表面には空気の微小な渦の流れが出現し、これが摩擦抵抗を増大させる(図3)。リブレットには、この渦を機体表面から遠ざけ、摩擦抵抗を低減する効果が期待できる。今回のリブレット加工では凹凸の高さを50μm、ピッチ(凹凸の間隔)を100μmとした。「一般に、ピッチに対して凹凸の高さを半分にすると摩擦低減効果が高くなる」(JAXA)という。

図3 JAXAが実施したスーパーコンピューターによるシミュレーション結果
図3 JAXAが実施したスーパーコンピューターによるシミュレーション結果
赤色が渦を表している。空気の流れは画像に対して垂直方向。(出所:JAL)
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 JAXAの試算では、リブレット加工を航空機全面に施工すると、およそ2%の燃費改善効果が見込めるという。これは、東京からロンドンまで「ボーイング777-300ER」型機で飛行した場合に、片道あたり「燃料にして約2200kg、CO2にして約7t削減できる」(JAL)という。

 今回の実証試験では、JAXAが検討したリブレット形状をニコンとオーウエルが持つ加工技術を使ってそれぞれ1機ずつ、計2機に施工した。施工場所は胴体下部のサービスパネル*1上に2箇所(図4)。それぞれ約7.5cm四方とした。「流体的に影響が小さく、安全上最もリスクが小さい」(JALエンジニアリング執行役員技術部長の小倉隆二氏)場所を選んだ。対象機種はJALが保有する旅客機の中では小型の「ボーイング737-800」型機。同社は実証機を2022年7月から国内線で運行していた*2

図4 リブレット加工を施した機体胴体下部
図4 リブレット加工を施した機体胴体下部
サービスパネル表面の光沢のない部分がリブレット加工。正方形1つの大きさは約7.5×7.5cm。(写真:日経クロステック)
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*1 サービスパネル 機体内部を点検・整備するために開閉できる蓋。
*2 乗客を乗せた実際の運行で飛行試験を実施。オーウエルが施工した実証機は2022年7月から、ニコンが施工した実証機は同年10月からそれぞれ飛行試験を開始した。

 ニコンが施工した機体で750時間、オーウエルが施工した機体で1500時間を超える飛行時間が経過し、JALの技術者が塗装の状態を観察したところ、いずれも実用化に十分な耐久性を確認できたという。飛行時間については、「他社のリブレット加工の試験を参考にした」(小倉氏)。

 JALの航空機では、通常5~6年ごとに塗装の塗り替えを実施しており、これは飛行時間に換算すると1万数千時間ほどになる。従って、「リブレット加工にも同程度の耐久性が求められるが、プロ(同社の技術者)の目で見れば半年ほど経過した時点で採否を判断できる」(同氏)という。