米Intuitive Surgicalの日本法人であるインテュイティブサージカル(東京・港)は2023年1月、約5年ぶりとなる内視鏡手術支援ロボットの新機種「ダビンチSPサージカルシステム」(以下、ダビンチSP)を日本市場に投入した。国内メーカーであるメディカロイド(神戸市)の「hinotoriサージカルロボットシステム」(以下、hinotori)は2022年12月に対象手術の保険適用が拡大。アイルランドの医療機器メーカー大手Medtronicも2022年12月に日本市場へ参入するなど、内視鏡手術支援ロボットの市場が活性化している。
4つの手術器具を1本のアームで制御
ダビンチSPはロボットアーム1本に、鉗子(かんし)やカメラといった最大4つの手術器具を取り付けられる。これらの手術器具は直径2.5cmの筒状部品を通して体腔(たいくう)内に挿入される。「体表の切開創が最少1つで済み、より低侵襲の手術が可能だ。整容性(手術後の外観)の向上にも寄与すると考えている」とインテュイティブサージカル社長の滝沢一浩氏は話す。アームが1本の内視鏡手術支援ロボットが日本で発売されるのは初めてだ。
従来の内視鏡手術支援ロボットはアームが4本あるタイプ(マルチポート)で、1本のアームで1つの手術器具を制御している。各アームの手術器具は、異なる方向から体腔内に挿入される。そのため体表に複数の小さな穴を開ける必要があった。
これまでも、穴を1つだけ開けて既存の器具で手術する執刀医はいた。「ただしこの手術は非常に難しいため、手術できる人はそう多くない。手術支援ロボットが役立つだろう」と自身も単孔式手術に取り組む札幌医科大学消化器・総合、乳腺・内分泌外科学講座教授の竹政伊知朗氏は話す。
ダビンチSPでは、手術器具の先端部における動作の自由度を拡大し、1本の筒状部品から複数の手術器具を挿入可能とした。切開創が少なくなることに加えて、ロボットアーム同士の干渉に配慮する必要もなくなる。従来の4本アームのロボットを使う場合、例えば狭くて長い咽頭を対象とした手術ではアーム同士が干渉しないように調整が必要だった。
アーム1本のロボットは、1つの穴すら開けない手術に応用できるかもしれない。肛門など体にもともとある穴から、内視鏡カメラや鉗子を体内に入れて病変を取り除く手術だ。まだ検証中であるが、有効性が確立されればこうした手術も一般的になる可能性がある。
2台目以降の需要を狙う
ダビンチSPは2018年に米国で初めて発売され、韓国でも販売されている。韓国では、術後の見た目を重視した患者がダビンチSPを使った手術を主治医に要望するケースがあるという。マルチポートのダビンチを使った手術の件数や種類が国内で増えてきたこともあり、韓国に次ぐ3カ国目として日本にもダビンチSPを投入した。
日本においてダビンチは、2012年に初めて前立腺がんの手術を対象に保険適用されており、それから5年ほどは主に泌尿器科で使われていた。2018年には新たに食道がんや肺がん、子宮体がんなど12の術式で保険適用され、その後も膵臓(すいぞう)がんや咽喉頭がんなど少しずつ保険適用の術式が拡大。2023年1月現在で、合計29術式が対象となった。現在、ダビンチは日本で570台以上が導入されているという。
このようにダビンチを使える手術の種類が国内で増え、ロボットの利用が広まってきたタイミングに合わせてダビンチSPを投入した形だ。ダビンチSPは、消化器外科や胸部外科、泌尿器科、婦人科、頭頸部(とうけいぶ)外科の手術に利用できる。同社は既にダビンチを保有し、実施する手術のバリエーション拡大に意欲的な医療機関などに複数台目として導入してもらうことを想定している。