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 米Tesla(テスラ)は2023年3月1日、投資家向け事業説明会「Tesla Investor Day 2023」を開催し、リアルタイムで世界に中継した。そこで、同社CEOのElon Musk氏は、再生可能エネルギーが非電力部門を含むエネルギーの大半を供給する「持続可能エネルギー経済(Sustainable Energy Economy)」を2050年までに実現する可能性が見えてきたと強調し、その実現のための目標となる「マスタープラン」を発表した(図1)。

図1 Tesla Investor Day 2023で話すElon Musk氏
(写真:YouTubeにおける中継動画を日経クロステックがキャプチャー)
図1 Tesla Investor Day 2023で話すElon Musk氏
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 テスラは実質3時間の説明会(質疑応答約30分は別)のうち、冒頭の約30分をこの持続可能経済の説明にあてた。

 まず、同社は現状の世界の1次エネルギー約165P(ペタ)Wh/年の8割が化石燃料由来である点を指摘した。ところが、「燃料のエネルギーの1/3しか有効に利用されていない」(テスラ)。これは、発電時や内燃機関での燃焼時にエネルギーの多くが熱となって失われていることによる。このエネルギー源を持続可能電源(再生可能エネルギーと蓄電システム、水素、メタンなど)にすれば、必要なエネルギーの総量は現状の1次エネルギーの半分近くに減ると指摘した(図2)。

図2 再エネベースなら、必要なエネルギー総量は現時点の約1/2に
(写真:YouTubeにおける中継動画を日経クロステックがキャプチャー)
図2 再エネベースなら、必要なエネルギー総量は現時点の約1/2に
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 これまで、1次エネルギー全体は一般に電力部門の発電量の約4倍などといわれてきたが、効率の改善分を考慮すると、実質2倍超だというわけだ。

 そのうえでテスラはマスタープランとして、持続可能エネルギー経済の実現に必要なエネルギーシステムの容量や出力を幾つか挙げた。具体的には、蓄エネルギーシステムの容量は、電気自動車(EV)に搭載した蓄電池も含めて240TWh、再生可能エネルギーは30TW、それらの製造に必要な投資総額は今後約20年で10兆米ドル(1米ドル=135円で、1350兆円)だとする。

 また、これを二酸化炭素(CO2)排出対策とその効果という観点でみると、大きく5つの分野に分けられるとする。具体的には、(1)電力源を再生可能エネルギーに転換することで排出量を35%減、(2)クルマをEVに切り替えることで同21%減、(3)家庭などでの冷暖房をヒートポンプに切り替えて同22%減、(4)鉄鋼の精錬やアンモニアの生産などでの高温プロセスを蓄熱した熱でまかなったり、グリーン水素を利用したりすることで同17%減、(5)航空機や船舶などの燃料を水素(H2)、またはCO2を基に再生可能エネルギーで合成したメタン(CH4)に変換することで同5%減ーーという5つである。

EV導入の社会的インパクトが大きい

 30TWという再生可能エネルギーは(1)だけに向けた分は既存の2TWと新設の10TWの計12TWだけで、(2)のEVへの充電用に4TW、(3)のヒートポンプの稼働用に5TW、(4)の蓄熱用に6TW、(5)の航空機や船舶向け燃料の製造用に4TWで、計30TWなのだという(図3)。

図3 導入する再エネや蓄エネルギーシステム、コストの各分野における内訳
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図3 導入する再エネや蓄エネルギーシステム、コストの各分野における内訳
(写真:YouTubeにおける中継動画を日経クロステックがキャプチャー)

 同様に、蓄エネルギーシステムとして必要になる240TWhも、半分近い115TWhはEV関連の蓄電池だけでまかなえる。投資額総額の10兆米ドルも、7兆米ドル分はEVの導入に伴う投資額で、テスラが、EV導入の社会的インパクトの大きさを重視していることのあらわれといえる。「パスタ1ポンド(約450g)をゆでるためのお湯を沸かすエネルギーでEVは1マイル走り、そのお湯でパスタをゆでるためのエネルギーでさらに1マイル走れる」(テスラ)。

 EVについては自動運転の普及も重要だという。Musk氏は「自動運転機能のないガソリン車に乗るのは、まるで折りたたみケータイを使いながら馬に乗るようなもの」という独特の表現で、旧来の自動車システムの時代遅れ感を揶揄(やゆ)した。

 EV以外の輸送システムの電化については、蓄電池のエネルギー密度の向上がポイントになるとする。「蓄電池のエネルギー密度がもう少し高まれば、輸送システムはロケット以外、ほぼすべてが電化する。ロケットも、CO2と水(H2O)からメタンを造れるようになれば事実上電化する」(Musk氏)。

 H2についてはMusk氏は以前からクルマには不要という立場だ。その点は今回も強調したが、(4)や(5)といった高熱プロセスや航空・宇宙用途では一定の価値を認めた格好になった。