幼稚園や保育園の送迎バスに置き去りにされた園児が、熱中症により亡くなる事故が相次いでいる。それを受け国土交通省は2022年12月、「送迎バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン」を策定した。2023年4月から幼稚園や保育園の送迎バスにガイドラインに適合する安全装置の設置が義務化される。こうした状況を受けて三洋貿易(東京・千代田)は2023年2月、ルクセンブルクIEE S.A(以下、IEE)が開発した送迎バス用子ども置き去り検知センサー「LiDAS(ライダス)」の実証実験を開始した。
IEEは車載センサーをはじめとするセンサーメーカーだ。車内の乗員検知センサーにおいては、車内置き去り検知センサーに加えて、シートベルトリマインダーセンサーやハンズオフ検知センサーなどを開発・製造する。
「30年以上にわたって乗員の安全性を高める車載センサーを開発してきた」とIEE最高経営責任者(CEO)のPaul Shockmel(ポール・ショックメル)氏は2022年11月の日経Automotiveのインタビューで語った。それらの技術を応用して、車内置き去り検知センサーを開発した。2020年には送迎バス用のライダスと共に、乗用車用の「VitaSense(バイタセンス)」の量産も始めている。
送迎バス用のライダスについては、2017年にスクールバスにおける需要を調査したことを機に開発を開始した。2020年に量産を始めており、米国でスクールバスへの搭載を開始している。2005年からIEEと日本国内代理店契約を結んでいる三洋貿易は、「2021年7月に福岡県中間市の保育園送迎バス置き去り事故を機にライダスの導入を決定した」(同社産業資材第一事業部事業部長の原田倫太郎氏)という。
ライダスは、24GHz帯の準ミリ波レーダーを使用したシステムだ。同レーダーを天井から発信して、受信した反射波の強度や周波数などを分析することで置き去りを検知する。シートなどのモノに反射した際の反射波の強度は一定だが、動くものの場合はその値が変化するという。人の呼吸による動きには一定の周期があり、それを分析することで人の存在を認識する。「数十秒発信することで確実に検知する」(同社産業資材第一事業部の堀内登志徳氏)としている。
置き去りを検知するには、超音波センサーやカメラなど、レーダーセンサーよりコストの低い技術もある。ただ、ショックメル氏は2022年11月のインタビューで「毛布の下にいる乳児の呼吸や厚手の上着を着た幼児など、超音波センサーやカメラでは捉えられない様々な条件下でも、確実に乗員を検知できるレーダーセンサーが最適と判断した」と話した。
ライダスは送迎バスやバンに後付けできる。送迎バスは、マイクロバスタイプとバンタイプを想定している。センサー1つで、送迎バスの座席2列分をカバーできる。マイクロバスタイプには7個、バンタイプには5個のセンサーを設置する。価格は取り付け費用も含めて、クルマ1台当たり50万円から65万円(消費税別)だ。クラウドネットワークを通じてリアルタイム通信とデータ保存も可能となる。