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 「金融犯罪にはオールジャパンで臨むのが望ましい。取り組みに期待したい」。GMOあおぞらネット銀行執行役員統合リスク管理グループ長の村田卓之氏は、全国銀行協会(全銀協)が2023年1月6日に設立した新会社に関してこう話す。

 新会社の名称は「マネー・ローンダリング対策共同機構(以下、共同機構)」。金融機関におけるAML(アンチ・マネーロンダリング)/CFT(テロ資金供与防止対策)業務に関する高度化・共同化の支援を狙う。共同機構で代表執行役社長を務める阿部耕一氏は、「AML/CFTは国を挙げて取り組むべき重要な施策であり、責任の重さを感じている。しっかり取り組んでいきたい」と述べる。

マネー・ローンダリング対策共同機構 代表執行役社長の阿部 耕一氏(写真:陶山 勉)
マネー・ローンダリング対策共同機構 代表執行役社長の阿部 耕一氏(写真:陶山 勉)
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2種類のAML/CFTサービス

 共同機構は2024年度から段階的に、2種類のサービスを提供する計画だ。1つめは「AIスコアリングサービス」。金融機関が利用している取引モニタリングシステムが発したアラートなどの情報に対し、AI(人工知能)を活用してリスクのスコア付けをするもの。「現状では多くの場合、アラート情報の確認を手作業で実施しており、金融機関の負担が大きい。AIスコアリングを利用すれば、担当者は確認が必要なアラートに重点を置いて作業することで業務を効率化できる」(阿部氏)。アラートを出すために使うシナリオの改善にスコアリング結果を利用すれば、誤検知も抑えられるとする。

 もう1つは「業務高度化支援サービス」。AML/CFT対策に関するプラクティスや実務上の対応例を策定し、実務基準やFAQとして提供することを想定している。金融機関は、体制を整備・改善する際にこれらを参考にできる。「AML/CFTの取り組みが国際的な要求水準に照らしてどの程度のレベルにあるのか、自行では判断しづらい。このサービスを通じて達成すべき実務基準を認識できるようになれば、業界全体の底上げにつながる」(阿部氏)。

「マネー・ローンダリング対策共同機構」の概要
「マネー・ローンダリング対策共同機構」の概要
(出所:全国銀行協会、NECの資料を基に日経FinTech作成)
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 2023年度には「為替取引分析業」の許可申請と並行して、サービス提供に向けた準備を進めていく。為替取引分析業は2022年6月に成立した改正資金決済法で創設されたもので、許可を受けた為替取引分析業者は複数の銀行などから委託を受け、委託元の為替取引に関する取引モニタリングや取引フィルタリングといった業務を共同化して実施できる。「多くの銀行が、当社のサービスに対する利用意向を示している。自行のAML/CFT対策に役立てていただきたい」と阿部氏は語る。

 共同機構について「当行の取り組みと併用していくことが有効」と話すのは、GMOあおぞらネット銀行 CTO(最高技術責任者)の矢上聡洋氏だ。同行は共同機構より一足早く、AML/CFT対策にAIスコアリングを導入した。米GoogleのAIプラットフォーム「Vertex AI」を利用し、GMOインターネットグループのAI研究開発室と共同で開発。2022年10月から、同行における全ての取引に対してリスクをスコア化し、不正な入出金の有無をチェックしている。

 現状では、AI判定の精度は初心者レベルというが、「担当者が確認する前の初検が可能な水準に近づいている。教育にも使えそうだ」と矢上氏は手応えを話す。