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 厚生労働省は2023年2月末から電子処方箋システムの見積もりや導入を担うベンダー名および対応可能時期の公表を始めた。2月27日に開催した電子処方箋の導入と利用を促進するための「電子処方箋推進協議会」の初会合で明らかにした。

 全国で電子処方箋の運用が始まったのは同会合1カ月前の2023年1月26日。現状、電子処方箋に対応する施設はわずかであり、システム導入を担うベンダーの対応が追い付かないなどの課題があるため厚労省は公表に踏み切った。だが、それでも電子処方箋システム導入には2つの壁が立ちはだかる。

 1つは、医療機関などでマイナンバーカードを保険証として使うために必要な「オンライン資格確認等システム」の導入完了時期。もう1つが医師や薬剤師が電子処方箋に電子署名する際に必要な「HPKIカード」の準備が進んでいないという壁だ。

電子処方箋導入に向けた協議会設置

 厚労省が新たに設置した電子処方箋推進協議会は、原則公開で実施され、電子処方箋の導入・利用に当たっての課題の共有、電子処方箋導入モデル事業の進捗状況の共有、導入促進のための方策などを検討する。

 協議会には電子処方箋の導入や利用に関わる医療機関や薬局、システムベンダーなどが参加。初会合では厚労省が2022年10月から実施している電子処方箋モデル事業の参加者が同事業で得た知見を共有したほか、厚労省が電子処方箋導入に向けた対応を説明した。

 その対応として厚労省が取り組むのがベンダー名などの公表だ。厚労省は各ベンダーに照会し、電子処方箋システム導入に当たっての「見積提示」「システム導入準備状況」などの対応可否や可能になる時期などをリスト化。2023年2月末から公表を始めた。医療機関や薬局はこれらのリストを参考にして、ベンダーにシステム改修の見積もりなどをしてもらう狙いだ。2023年3月2日時点で、厚労省が照会した100以上の事業者のうち42事業者から回答があり、今後回答があり次第更新していくという。

2023年9月末まではベンダーリソース逼迫

 対応可能な事業者リストの公表はシステム導入意向がある施設にとって有意義だ。一方で、「(厚労省の)リストで対応可能とあっても、現実には現場はすぐに対応するのは難しいだろう」(薬局関係者)との声も聞こえる。

 冒頭挙げた2つの壁があるためだ。1つはオンライン資格確認等システムの導入完了が2023年9月末になることだ。

 「(電子処方箋システム導入には)全力で協力するが、時期というものがある。基盤になるのがオンライン資格確認等システム。まずこちら(のシステム導入)に全力を注いで、それが整ってからが電子処方箋の導入だ」。2023年2月27日の電子処方箋推進協議会では日本医師会の長島公之常任理事はこう指摘した。

 電子処方箋は薬剤師がシステムを介して処方箋を取得したり、調剤内容を登録したりする仕組みである。社会保険診療報酬支払基金(支払基金)などが管理するシステムに医師が処方箋のデータを登録し、医師や薬剤師、患者が情報を登録・共有する。

電子処方箋の仕組み
電子処方箋の仕組み
(出所:厚生労働省)
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 医療機関や薬局が電子処方箋を利用するためには、オンライン資格確認等システムの導入が前提となる。 具体的には、患者を受付で認証するための顔認証付きカードリーダーを導入し、レセプトコンピューター(レセコン)を改修したりネットワークを整備したりする。電子処方箋の発行に当たっては、これらとは別にレセコンなどの改修が必要になる。

 ただ、2023年2月26日時点でマイナンバーカードの保険証利用が可能となっている医療機関(病院、診療所)は全体の約4割にとどまる。同年9月末までに残りの医療機関が導入、運用を開始する必要があるのだ。

 システム改修を担うベンダーは、医療機関と薬局のオンライン資格確認等システムの導入も担っており、その対応が終わらないとその次の段階である電子処方箋を利用するためのシステム改修にリソースを集中させることが難しい。

 オンライン資格確認等システムの導入は2023年4月から義務付けとなっているが、医療機関でのシステム導入が遅れ運用開始は間に合わない可能性があるため、厚労省はシステム整備が間に合わなかった施設を対象に、同年9月末まで経過措置を設ける事態となった。そのため、同年9月末まではベンダーのリソースが逼迫しているというわけだ。