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 政府は2023年3月7日、マイナンバーとマイナンバーカードについて定める「マイナンバー法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)」の改正法案とその関連法案を閣議決定した。マイナンバーカードの健康保険証利用の推進のほか、マイナンバーを使った情報連携をスムーズにするなど、マイナンバー制度の活用を促進する。

 マイナンバー制度は行政事務を円滑にするのが狙いだが、新型コロナウイルス感染症対策ではうまく活用できず「デジタル敗戦」とも呼ばれた。こうした背景を踏まえて、6つの大きな改正によりマイナンバー制度を使いやすくする。

「法令を超えて政府の裁量が大きくなることはない」

 改正法案は6つの柱から成り、いずれもマイナンバーとマイナンバーカードの利用をスムーズにするための改正である。

マイナンバー法改正のポイント
(出所:デジタル庁の資料を基に日経クロステック作成)
ポイント概要
マイナンバーの利用範囲の拡大国家資格など、自動車登録などの事務でマイナンバー利用を可能に
マイナンバーの利用と情報連携の規定見直しマイナンバー利用が認められている事務に準ずる事務もマイナンバー利用可能に
マイナンバーカードと健康保険証の一体化健康保険証廃止と、必要な場合は「資格確認書」を提供する。乳児に公布するマイナンバーカードで顔写真が不要に
マイナンバーカードの普及・利用促進在外公館でマイナンバーカード交付可能に
マイナンバーカードに氏名の振り仮名を追加戸籍、住民票、マイナンバーカードに氏名の振り仮名を追加
公金受取口座の登録促進年金受給者などに対して、同意または一定期間に回答がなければ公金受取口座として登録可能に

 新型コロナウイルス感染症対策でマイナンバー制度を十分に活用できなかった反省から今回の改正に至った1つが、「マイナンバーの利用と情報連携の規定見直し」である。

 マイナンバーを利用できる事務を新たに追加するには法改正が必要だが、今回の改正では規定された事務に「準ずる事務」であれば、法改正なしにマイナンバーを利用できるようになる。法律に書かれた事務で新たにマイナンバーを利用できるようにするためにはこれまで通りの法改正が必要だ。

 その上で、マイナンバーを利用できる事務について政省令で規定することで、マイナンバーを使い情報提供ネットワークシステムを介した情報連携が可能となる。これにより、本人がマイナポータル上で照会もできるようになる。

 ただ、「準ずる事務」が何か具体的に分かりにくいため、マイナンバー利用事務の範囲がどこまで広がるのか懸念の声もあがる。デジタル庁担当者は「趣旨、目的が同一であるもの。作用や内容が同一であることなどが基準になってくる」とする。新たに追加する場合には、政省令案を公表しパブリックコメントを求めるプロセスを経る予定である。

 「法令を超えて政府の裁量が大きくなることはありません」。河野太郎デジタル相は同日、改正法案の閣議決定を報告した記者会見で、こう強調した。その上で、「準ずる事務」を追加するのは「あくまでも例外的なものと考えていただきたい」とした。

 では、どういったケースがあるのか。河野大臣は自身が当時担当大臣を務めた新型コロナウイルスワクチン接種の事例を挙げた。「在日米軍基地で日本人従業員を対象としたワクチン接種は(マイナンバーを利用する)VRS(ワクチン接種記録システム)に登録できなかった」とし、こうした例外的なケースで利用できるようにするとした。