材料開発における日本の国際競争力のさらなる強化を目指し、オールジャパン体制で開発された新たな材料開発システム「MInt(Materials Integration by Network Technology)」。個々の材料や製品を改良するような従来のマテリアルズ・インフォマティクス(MI)とは一線を画すシステムや運用方法に、日本が世界で激化する開発競争に勝つための工夫がある。
「高温でさっとあぶった後、低温でじわっと焼く」――。まるで料理の解説のようだが、実は物質・材料研究機構(NIMS)が発表したニッケル(Ni)基超合金の時効処理における加熱工程を表現している。時効処理とは、金属部品を粉末鍛造や積層造形などで造形した後に数百℃の高温に加熱・保持して強度を高めるプロセス。冒頭の加熱パターンは、NIMSなどが開発した構造用金属系材料向けの材料開発システム「MInt(ミント)」が、およそ35億通りのパターンから導き出した(図1)。
MIntは、材料内部の組織形成を計算するフェーズフィールド法や、材料強度の予測モデルなど、さまざまなアルゴリズムを備える。複数のアルゴリズムを組み合わせた解析プログラムを解くことで、材料組成から強度などの物性を予測したり(順問題解析)、所望の性能を得るための生成条件や組成などのプロセスを検討したり(逆問題解析)できる(図2)*1。
冒頭の時効処理の事例は、加熱温度と時間の膨大な組み合わせから、強度が最も高くなる加熱パターンをAIがピックアップして最適な時効処理プロセスを検討した逆問題解析の例だ(図3)。MIntの開発を率いたNIMS統合型材料開発・情報基盤部門長の出村雅彦氏は「MIntを使えば1つの加熱パターンを半日以内に計算できる。これは従来の実験による検討と比べて100倍以上速い」と胸を張る。
そもそも、時効処理は単一温度で処理するのが一般的だった。理由は、実験では1つの加熱パターンを試すのに半月以上を要し、実質的に「時間もしくは温度どちらか1つのパラメーターを変える検討しかできなかった」(同氏)ため。しかし、MIntを活用したデータサイエンスのアプローチによって試行回数が飛躍的に増え、時系列で加熱温度を変えるという新たなプロセスの発想が可能になった。
このようにMIntは、材料開発にデータサイエンスを応用する開発手法であるMIの一種といえる。ただし、MIntを開発した真の目的は、日本の材料開発における国際競争力の強化だ。冒頭に述べたように個々の材料や製品を改良するような従来のMIとは一線を画すシステムの構造や運用方法に、世界との開発競争に勝つための工夫がある。