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 祖業であるCDN(コンテンツ・デリバリー・ネットワーク)からセキュリティーに事業の軸足を移してきた米Akamai Technologies(アカマイ・テクノロジーズ)。今度はパブリッククラウドに挑む。米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)など競合がひしめく市場にこれから参入するというのだ。

 「当社で最大の製品ラインは今はセキュリティーだが、今後はコンピュート(ITインフラストラクチャーのサービス)が最大になるだろう」。アカマイのトム・レイトンCEO(最高経営責任者)は2023年3月2日に東京都内で開催した記者会見でこう述べた。

都内で記者会見する米アカマイ・テクノロジーズのトム・レイトンCEO(最高経営責任者)
都内で記者会見する米アカマイ・テクノロジーズのトム・レイトンCEO(最高経営責任者)
(撮影:日経クロステック)
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 CDN事業者として知られるアカマイだが、今期(2023年1~3月期)はセキュリティーが、同社における最大の事業になりそうだ。具体的にはWAF(Webアプリケーションファイアウオール)やSWG(セキュアWebゲートウエイ)、IAP(アイデンティティー認識型プロキシー)などのサービス事業だ。

 直近の2022年10~12月期決算では、セキュリティーの売上高が4億20万ドルで、CDNの売上高である4億1518万ドルをわずかに下回った。しかしセキュリティーの成長率が前年同期比10%増だったのに対し、CDNは同12%減だった。この傾向が続けば今期にはセキュリティーの売上高がCDNを上回る。

 CDNからセキュリティーへと軸足を移したばかりのアカマイだが、次はパブリッククラウドのIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)を主軸として事業を成長させるというのがレイトン氏の主張だ。

老舗のVPS事業者「Linode」を買収し本格参入

 原動力とするのはアカマイが2022年3月までに約9億ドルで買収を完了させたIaaS事業者の米Linode(リノード)。2023年2月にはLinodeが提供してきたサービスのブランド名を「Akamai Connected Cloud」に改称し、日本のロケーションも既にある東京に大阪を追加するなど、サービスの強化を進める。レイトンCEOは今回、このAkamai Connected Cloudをアピールする目的で来日した。

 アカマイはこれまでも、サーバーレスでプログラムを実行するFaaS(ファンクション・アズ・ア・サービス)を「Akamai EdgeWorkers」として提供していた。それに対して買収したLinodeは、2003年にVPS(仮想専用サーバー)として始まった仮想マシンやコンテナを提供するサービスである。FaaSとVPSの2種類のサービスがAkamai Connected Cloudに統合された。

 アカマイのレイトンCEOはLinodeを改称したAkamai Connected Cloudを「ハイパースケーラーのクラウドサービスを使おうと考えている顧客に対して、ミッションクリティカルなワークロードを稼働できる低価格な選択肢として売り込む」と語る。つまりAWSや米Microsoft(マイクロソフト)、米Google(グーグル)といったIaaS領域の巨人に正面から挑もうというのだ。

データ転送料金で価格競争を仕掛ける

 ハイパースケーラーによる寡占化が進むIaaS市場で、アカマイに勝機はあるのか。レイトンCEOが挙げるキーワードの一つが「エグレス(Egress)」だ。エグレスとはIaaSで稼働するサーバーから外部のインターネットに向かって出ていくデータ通信を指す。他のクラウドサービス事業者ではアウトバウンドのデータ転送などとも呼ぶ。データ転送コストを競合よりも大幅に安価に設定することで、競合に挑むのだとする。

 例えばAWSにおけるエグレスのデータ転送料金はリージョンによって異なるが、「米国東部(バージニア北部)」リージョンの場合、転送量は1GB(ギガバイト)当たり0.05~0.09ドル。月間転送量が多くなるほど1GB当たりの料金が安くなる仕組みで、10TBを転送した場合の料金は約900ドルといったところだ。Microsoft AzureやGoogle Cloudにおけるエグレスの料金水準もAWSとほぼ同じだ。