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 最終赤字が過去最大の1050億円に──。旭化成が2023年3月期通期の最終損益の予想について大幅な下方修正を発表した。これまで700億円としていた最終黒字の予想から一転、1750億円のマイナスを見込む。原因は、買収価格を正しく見積もれなかったこと。買収した企業の価値が下がり、その減損処理を行った結果だ。

リチウムイオン2次電池用セパレーター
リチウムイオン2次電池用セパレーター
左が湿式セパレーター、右が乾式セパレーター。(写真:旭化成)
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 下方修正を余儀なくされたのはセパレーター事業である。旭化成は2015年、米Polypore International(ポリポア・インターナショナル、以下Polypore)を22億米ドル(約2600億円、1米ドル=約118円当時)で買収した。Polyporeは、リチウムイオン2次電池用乾式セパレーター事業と、鉛蓄電池用セパレーター事業を手掛ける企業。一方で、旭化成はリチウムイオン2次電池用湿式セパレーター事業を展開し、当時の世界シェアは35%で世界首位だった。同社はこの買収でリチウムイオン2次電池用セパレーターのシェアを一気に約50%まで引き上げ、断トツの世界トップ企業となる考えがあった。

 ところが、結論から言えば「買い損」だった。買収価格が高すぎたのだ。背景には、中国企業の急成長がある。旭化成は2018~2019年ごろに世界首位から転落。代わりに、世界トップに立ったのは中国・上海エナジーだ。2021年時点で上海エナジーの世界シェアは約21%と、10%を切った旭化成に対して2倍の差を付けている。

買収した乾式セパレーター事業を伸ばせず

 湿式セパレーターには高容量という利点がある。強度が高く薄く造れるためだ。その分、工数が多く有機溶剤を使うためコストが高い。正極材にニッケル(Ni)-マンガン(Mn)-コバルト(Co)(NMC)系およびニッケル(Ni)-コバルト(Co)-アルミニウム(Al)(NCA)系を使うリチウムイオン2次電池に採用される。これに対し、乾式セパレーターは、湿式セパレーターと比べて強度は低く厚みがあるものの、低コストという利点を備えている。正極材にリン酸鉄リチウムを使うリチウムイオン2次電池(LFP系2次電池)に使用される。

 旭化成はPolyporeの買収によって手に入れた乾式セパレーター事業を伸ばせなかった。上海エナジーなど競合企業との低価格競争に対抗できなかったとみられる。加えて、同じくPolyporeの買収で手中にした鉛蓄電池用セパレーター事業も、原材料の高騰で収益が伸び悩んだ。これらは旭化成にとって買収時には見通せなかった誤算だった。