米連邦預金保険公社(FDIC)は米国時間3月10日、米銀シリコンバレーバンク(SVB)が経営破綻したと発表。その2日後の3月12日、急転直下、米財務省が預金の全額保護を表明した。テック企業にとっての危機は去るのか。短期と中長期に分けて展望する。
関連記事: 米シリコンバレーバンク破綻の衝撃、「テック終焉」の予兆と言い切れない理由破綻したシリコンバレーバンクは米国内のスタートアップへの積極的な融資で知られる。米国のスタートアップの約半数、2022年に新規株式公開(IPO)したテック企業の44%と銀行取引があった。破綻による直近の影響は、スタートアップの資金繰りだ。
米連邦預金保険公社(FDIC)が破綻管財人となり、上限付きの預金保護を発動。2023年3月10日から取引を停止した。FDICによる保護上限は1口座当たり25万ドル。数年前までSVBと銀行取引があった起業家は「個人向けでは十分な額かもしれないが、企業預金では“すずめの涙“の預金保護だ」と話す。週明け3月13日に預金者からのアクセスを再開するとしていた。12日午後には、米財務省などが「預金の全額保護」の公式声明を発表している。
SVBの銀行としての価値は、スタートアップに対する理解力と小回りにあった。スタートアップに対して、「ベンチャーデット」と呼ばれる借り入れ資金調達サービスを提供していた。
例えば、スタートアップが半年後に新商品の発売を控えているとする。発売の後のほうがバリュエーションは上がる傾向にあるため、資金調達は半年後以降にしたい。ただ、資金繰りに不安があり、それまでのつなぎ融資がほしい。こんな状況下で、大手銀行に融資を依頼しても、「長ければ数カ月かかってしまう」(米国スタートアップの幹部)。あるベンチャーキャピタル(VC)の幹部も「正直、スピード感で大手銀行は話にならない」と解説する。
一方でSVBは普段からスタートアップコミュニティーで情報を収集していた。みずからリードパートナー(LP)の一員となってスタートアップ投資もしていることから、融資を求めるスタートアップに対して迅速で適切な与信評価ができる。スクラムベンチャーズの創業者でジェネラル・パートナーを務める宮田拓弥氏は「ファンドレイズまでの期間をブリッジするデットファイナンスに大きな価値があった」と語る。
SVBと取引がある米国スタートアップの経営者は「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)企業の場合は、SVB側も月々のサブスクリプション売上高がある程度、見える。例えばその3倍の金額をラインオブクレジット(短期運転資金融資)として確保してくれるといったサービスを受けることができた。これが、経営者にとっては大きな安心感となっていた」と打ち明ける。
SVB破綻の短期的な影響は、週明け3月13日以降のスタートアップの資金繰りだと考えられていた。少なくとも3月10日午前以降、SVBの口座は全て凍結されており、預金の引き出しや移動はできない。米国では給与を月2回支払う企業が多く、13日の週に給与支払いのための出金が必要になる。SaaS企業などではクラウドなどベンダーに対する支払いもある。一時的に、こうした支払いへの対応に迫られるはずだった。
スクラムベンチャーズの場合、100社強の投資先企業のうち、SVBにしか口座を持っていなかったり複数の銀行に口座を持つが一部をSVBに預金していたりして影響を受けている企業は10%以下だという。
宮田氏は財務省による預金全額保護が決まる前、本誌に「(口座凍結で)単純に支払いに困っている企業には、売り上げの請求書を担保に短期的に融資してくれる金融機関を手当てしたいと考えている。可能性は低いと思うが、エクイティーのニーズがあれば全面的にサポートする予定だ」と投資先に対する支援を説明していた。
ただし、預金全額保護の決定で週明け13日からのリスクは一旦回避されたと言えるだろう。