2023年4月の給与デジタル払い解禁を控え、厚生労働省はスマートフォン決済などを手掛ける資金移動業者からの相談や申請を受け付ける窓口を設ける。複雑な申請業務の負担軽減が狙いだ。ただ、当の資金移動業者の腰は重いまま。厚労省の対応の遅れに加え、制度自体への不満が根底にある。
厚労省が2023年4月1日、資金移動業者の給与デジタル払いへの相談や申請などの対応を行う専門の部署を賃金課の中に新しく設置する。「賃金支払制度業務室」という名称で発足準備を進めている。
新設部署は同じく2023年4月1日に解禁される給与デジタル払いに関する問い合わせ窓口を担う。主な相談者に想定するのは、給与デジタル払いの対象サービスを運営する資金移動業者だ。給与デジタル払いの解禁で、現金か銀行口座への振り込みで行われていた給与の支払い方法に、「PayPay」「楽天ペイ」「au PAY」といったスマートフォン決済アプリや電子マネーなど、資金移動業者が運営するサービスの残高に直接振り込む方法が加わる。
厚労省職員に弁護士、会計士が相談受け付け
厚労省は新設する窓口を通じて、資金移動業者が実施すべき作業に関する相談や質問に回答したり、各種の申請を受け付けたりする。一例が厚労省の指定事業者になるために必要な準備作業に関する問い合わせだ。
資金移動業者が給与デジタル払いの事業者として厚労省の指定を受けるには、厚労省の労働政策審議会労働条件分科会が定めた7つの要件を満たす必要がある。厚労省は2023年3月8日に、7つの要件を含む「資金移動業者の口座への賃金支払に関する資金移動業者向けガイドライン」を公表した。資金移動業者が経営破綻した際の債務保証の仕組みや保証金の額、毎月1回は無料で引き出せること、1円単位で賃金をデジタル口座へ移せることなどを定めている。
資金移動業者は原則として同ガイドラインに準拠する必要がある。これらの要件を満たしていると証明する申請書に何をどう書けばよいのか、資金移動業者が相談する窓口を厚労省の新設部署が担うわけだ。
7つの要件やガイドラインへの準拠と、給与デジタル払いに参入する資金移動業者に課されるハードルは高い。複雑な申請作業の相談や労働基準法に準拠した運用体制づくりについて、新設部署が相談を受け付けたり回答したりする。
新設部署は指定事業者についての定期的な監査、指導、監督などの業務も担う。ガイドラインに違反した事業者の指定を取り消すこともある。相談受け付けから回答、申請の受け付け、監査、指定の取り消しまで、給与デジタル払いに関する厚労省の事務は全てこの新設される部署が担う。
新設部署には厚労省の担当者5人に加え、弁護士・会計士それぞれ1人ずつの7人ほどの人員を配置する予定だ。想定する相談内容は、資金移動業者の用意しているサービスがガイドラインなどに沿っているかどうか、申請前にクリアすべき要件を満たすために行っている手続きの方向性が間違っていないかの確認などだ。
取り消しの前には法的手続きで指定を取り消し、お金の補填などを行わなければならないなど、多方面の専門的な知識が必要になる。そこで、「厚労省が日常行っている行政周りのことだけでなく、弁護士や会計士などの専門家にアドバイザーのような位置づけで意見を聞く」(厚労省)。
現在も厚労省のWebサイトからは資金移動業者からの相談をメールで受け付けている。現在使われているメールアドレスに変更はなく、引き続き同じメールアドレス宛てに相談できる。