マツダが無線通信によってソフトウエアを更新するOTA(Over The Air)の本格導入に向けて、水面下で準備を進めている。ターゲットは2025年ごろのようだ。車両制御ソフトのOTAにまで踏み込む。
「今はまだ、OTAに対応する範囲を限定している。しばらくは“熟成”が必要で、日々の改善を繰り返している」。こう明かすのは、マツダMDI&IT本部主査の山崎雅史氏である。
同社は、2022年9月に発売したSUV(多目的スポーツ車)「CX-60」から適用を始めた新プラットフォーム(PF)「ラージ」(ラージPF)にOTAのシステムを導入している。だが、OTAで対応できるのはカーナビをはじめとするインフォテインメントシステムなど限定的だ。
日産自動車も、OTAを本格導入する時期として2025年を設定する。同社COO(最高執行責任者)のAshwani Gupta(アシュワニ・グプタ)氏によると、「2025年から(コネクテッドサービス)の『フェーズ3』を開始し、オンデマンドで必要な機能を購入できるようにする」計画である。自動運転や電動パワートレーン、HMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)などの機能を準備中という。
OTAの導入で先行するのは米Tesla(テスラ)。ADAS(先進運転支援システム)の機能追加もOTAで実行する。2023年2月にはADAS関連の不具合で、米国で約36万台の電気自動車(EV)がリコール対象となったが、不具合改修もOTAで済ませる。
先見性が目立つテスラだが、「ベータ版」と称するADASが交通事故を引き起こしているのも事実。テスラ車を狙ったセキュリティー攻撃も散見される。マツダや日産をはじめとする日本勢は、テスラの動向を注視しつつ、来るべきOTA時代に向けて地道に歩を進める。ソフトを開発・管理する環境を整備し、ソフトウエア定義車両(Software Defined Vehicle、SDV)に向けたハードウエアの在り方を模索する。
2024年7月がOTA時代の第一関門
日系メーカーが2025年ごろをターゲットとする大きな理由が、優先して対応すべき法規があることだ。具体的には、国連規則の「UN-R155」(サイバーセキュリティー)と「同R156」(ソフト更新)への対応を迫られている。2020年6月に採択され、2021年1月から法規施行されている。
欧州では、新型車には2022年7月から適用され、2024年7月からは継続生産車を含む全ての車両への適用が予定されている。日本では、2022年7月にOTA機能付きの新型車への適用が始まり、2024年1月に全ての新型車に適用範囲が広がる。継続生産車への適用は2026年5月からだ。
ある日系自動車メーカーのソフト技術者は「限られたリソースではあれもこれもと手を着けられない。OTAを使いこなして、新しい価値を早く提案したいが……」と打ち明ける。マツダの山崎氏も「まずは法規対応が優先」と語る。
法規対応が一段落するのが、R155やR156が欧州で継続生産車に適用される2024年7月ごろ。欧州と日本では細かい項目では差異があるが、微調整で対応できる見込みという。この時期を乗り越えることが、OTA時代に向けた第一関門なのだ。