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 スタートアップのアイリスが2022年12月に販売を開始した医療機器「nodoca(ノドカ)」は、AI(人工知能)を用いてインフルエンザの診断補助を行うという従来にない機能を搭載する。このAIを開発したエンジニアチームは、全員が百戦錬磨だったわけではない。例えば、入社前はAIエンジニアとしての実務経験がほぼなく、深層学習によるモデル構築は未経験だった人もいた。どのようにして同社は新しい医療AIの開発を実現したのか。

AIコンペへの参加を積極的に支援

 ノドカは専用カメラで撮影した咽頭の画像と問診データから、インフルエンザに特徴的な咽頭の様子や症状があるかを判定するものだ。ノドカの実用化に向けてはいくつか越えなければならない壁があった。その1つが、判定を高精度で実現するAIの開発だ。

アイリスが開発したnodoca(ノドカ)の利用フロー
アイリスが開発したnodoca(ノドカ)の利用フロー
(出所:日経クロステック)
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 2017年11月設立の同社は、ノドカの開発を進めながらAIエンジニアを拡充していった。その中には冒頭で紹介したように深層学習については未経験のエンジニアもいたが、ノドカのAI開発において重要な役割を担った。十分な戦力として活躍できたのは、エンジニアの実力を高め、その実力を発揮しやすい仕掛けを用意したからだ。

AI開発に関するアイリスの仕掛け 
AI開発に関するアイリスの仕掛け 
エンジニアの実⼒を⾼め、その実⼒を十分に発揮した効率的な開発を実現するために、AIコンペ「Kaggle」への参加を⽀援し、専用の開発プラットフォームを構築している。(出所:日経クロステック)
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 仕掛けの1つが、AIコンペティションプラットフォームKaggle(カグル)への参加を会社として積極的に支援している点だ。例えば就業時間の最大40%をカグルの参加に充てられる。「AIコンペで得られる知識や経験が、エンジニアの技術力向上や事業の発展につながる」〔アイリスCTO(最高技術責任者)の福田敦史氏〕という考えである。

アイリスCTO(最高技術責任者)の福田敦史氏
アイリスCTO(最高技術責任者)の福田敦史氏
(撮影:日経クロステック)
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 カグルのコンペでは、参加者があるテーマの中で決められたデータを使ってAIモデルを構築し、精度を競う。「カグルには優秀なエンジニアが世界中から集まってくる。常に競争の場に身を置くことで、AIを開発する上で重要な『直感力』を磨くことにつながる」。カグルへ参加するメリットについて福田氏はこう話す。

 AIエンジニアの実力向上の証しとして、2023年2月28日にはカグルの最上位ランク「Grandmaster」を2人のAIエンジニアが獲得した。アイリスのData Scientistである吉原浩之氏と有安祐二氏だ。2人とも入社前は深層学習については未経験だった。約20万人のカグル参加者のうち、Grandmasterは世界でたった278人しかいないという。