デジタル庁が官民で横断的に利用できる認証アプリを、2024年度初めをメドに提供することが、日経クロステックの取材で分かった。マイナンバーカードを使った本人確認手続きやログイン認証を、新たに開発するスマートフォン用アプリに集約する。
これまでマイナンバーカードを使った本人確認手続きやログイン認証は、行政のサイトや民間サービスごとに異なっていた。デジタル庁は国の行政サイトを新認証アプリに順次対応させるほか、地方自治体に利用を促し、さらに民間サービスにもアプリの認証機能を開放する。国と地方、民間が横断的に利用できる、いわば個人認証の「スーパーアプリ」の地位を狙うプロジェクトといえる。
本人確認手続きや個人認証がこのアプリ1つで可能になることで、マイナンバーカードの利用者体験が大きく向上するというメリットをデジタル庁は訴える。
マイナンバーカードは2023年3月12日時点の申請ベースで対象人口の75.4%に普及した。それでも利用場面の広がりが官民ともに十分でない点にデジタル庁は危機感を募らせる。用途拡大の呼び掛けだけでなく、ユーザー体験の改善で利用場面を押し広げようとする試みは成功するか。
民間のマイナカード利用、認証アプリならシステム改修費が少なく
デジタル庁が2023年3月17日、認証アプリの仕様書を公示して調達手続きを始めた。2023年5月26日に開発ベンダーを決定し、2024年3月末までに同アプリや認証基盤を開発する予定だ。開発が順調に進めば、2024年4~6月期をメドに認証アプリをリリースする。
新認証アプリの提供により、デジタル庁は2024年度中にも行政手続きサイト「マイナポータル」のアプリを改修して認証機能を切り離し、行政サービスに特化させる。国が今後開発する行政手続き用のアプリやサイトは、他省庁も含めて新認証アプリに対応させる方針だ。国税庁の「e-TAX」や政府の行政総合サイト「e-Gov」など、すでにマイナポータルやマイナンバーカードを認証に使っている行政サイトやアプリは順次改修して、認証アプリに対応させる。
法人や個人事業主が補助金手続きなどに使う「GビズID」の発行手続きは、他に先行して2023年度中に認証アプリ向けの基盤を活用する。これまではID発行の手続きには郵送する書類への押印と印鑑証明書の添付が必要だったが、代表者がマイナンバーカードを使ってオンラインで手続きが完結できるようになる。
民間への開放は、現行法の見直しなど制度整理が必要なため行政より遅れるものの、2024度中に始まる可能性がある。デジタル庁が2023年度から民間向け制度の検討に入り、「2024年度には民間利用方法の方針を出したい」(デジタル庁の認証アプリチーム)とする。
民間のマイナンバーカード利用は、「PayPay」をはじめとするQR決済やフリマアプリ「メルカリ」、金融各社が口座開設時の本人確認に用いるなどで増えつつある。ただし、これらの利用形態では一定のシステム開発投資が必要で、民間利用が広がらない要因になっている。システム開発には一般に、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が提供する「公的個人認証サービス(JPKI)」とのシステム接続や、本人確認時の画面などの機能開発が必要だ。またJ-LISと直接接続する事業者になるには、審査を経て総務大臣の認定を受けるという手続きの負担もある。
これに対して、新たな認証アプリを使う場合は、民間サービス側から業界標準技術である「Open ID Connect」のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)を使って認証情報を要求すれば、認証の結果を得られるなど、システム改修負担を大幅に減らせる。民間利用の料金や制度上の条件は「これから検討する」(デジタル庁の認証アプリチーム)ものの、民間利用の拡大につながる内容を目指すとみられる
逆の見方をすれば、JPKI方式よりも明らかに費用が安く手続きも簡便になるメリットを認証アプリが打ち出せなければ、マイナンバーカードの民間利用を広げる起爆剤にはなり得ないといえる。デジタル庁は2023年1月から2025年末までの3年間、JPKI方式による電子証明書の利用料を無料にする促進策を実施している。同アプリを民間に開放するときには、これに匹敵する普及策が求められそうだ。