全2067文字
PR

 Zホールディングス(HD)がリスキリング(学び直し)で成果を上げつつある。2年越しで企画・運営してきた社内大学のうち、非ITエンジニア職向けの「AI(人工知能)活用スキル育成講座」で400余りの事業企画を創出。グループ会社アスクルのEC(電子商取引)サイトのクリック率を3割高めるなど、事業強化につなげている。世界的なAIテックカンパニーを目指すZHDにとってAIの使い手の増員は、画期的なAI技術そのものを生み出す基盤固めでもある。

 「履歴データの蓄積がない新規来訪者にも、より効果的なレコメンデーション(推薦)ができるようになった」。アスクルの企業向けECサイト「ASKUL(アスクル)」で、データ分析に基づく事業戦略企画を担当する保田大輝氏は、AI活用スキル育成講座の成果をこう語る。保田氏は同講座で身に付けたスキルを生かし、ASKULのサイト来訪者の目的をAI技術で推定するシステムを開発。同システムをおよそ1年間運用したところ、新規来訪者のCTR(クリック率)は、同システムを適用していないケースに比べて3割高まった。

アスクルの保田大輝氏
アスクルの保田大輝氏
(写真:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 新規来訪者の目的推定は、アスクルの経営における重点課題の1つだ。同社は2023年3月で創業30周年を迎えた。この間、事業の主力は紙のカタログ通販からEC サイトへと移り、新規顧客を獲得する販促の場もEC サイトの比重が高まった。ただ、ECサイトの来訪歴や商品の購入歴がある既存利用者と異なり、新規来訪者は目的の推定に使えるデータが限られる。カタログなら受け付け担当者が電話で質問できるが、ECサイトでは人手を介した接客は難しい。

 そこで既存の来訪者データをIDごとにクラスター(属性に基づく集団)に分類。各クラスターの購買結果やECサイト内の行動履歴といったデータを基に、クラスターごとの来訪目的を推定した。この結果を基に、新規来訪者がECサイト上でとった行動と関連が深いとみられるクラスターに沿った商品や販促の情報を、表示・推薦するようにした。この一連のデータ分析や推薦といった処理に、AI技術を活用したわけだ。「買いたい商品が決まっている目的買いの来訪者ならこう行動するだろうといった、経験頼みの仮説は以前からあったが、AI技術を生かして仮説を裏付けることができた」(保田氏)。