かつてルネサス エレクトロニクスは、独自CPUコアベースのマイコンにこだわっていた。2019年10月に発表した「RAファミリ」を機にArmコアベースのマイコン(以下、Armマイコン)の本格的な取り組みを始めた*1。競合に出遅れたものの、RAファミリによって新規顧客の獲得に成功し*2、最近では「Armマイコンのリーダーの1社として認知されている」(同社)という。
関連記事 *1 「マジでArmマイコンやります」、ルネサスがようやく決心 *2 ルネサスがRISC-V先行宣言、Armマイコンの失敗は繰り返さないドイツ・ニュルンベルクで開催の組み込み関連の国際展示会「embedded world」では、マイコン各社が新製品などを出展する。2023年3月14~16日に開催の「embedded world 2023」において、ルネサスはArmコアマイコンに関する3件の新規展示を行った(図1)。(1)開発中のハイエンドArmマイコン、(2)マイコンの応用開発環境、(3)エントリーレベルのArmマイコン新製品についてである。以下、それぞれの概要を紹介する。
(1)開発中のハイエンドArmマイコンに関しては、AI処理デモンストレーションを実施した ニュースリリース 。このマイコンは、英Arm(アーム)が2022年4月に発表したハイエンドCortex-Mコア「Cortex-M85」を集積する*3。ルネサスは前回のembedded world(2022年6月にドイツ・ニュルンベルクで開催のembedded world 2022)において、このマイコンのデモンストレーションを行っている ニュースリリース 。同社によれば、Cortex-M85集積マイコンのデモンストレーションは業界初だったという。
関連記事 *3 Armがマイコン向けハイエンドCPUコア、Cortex-M85発表今回はembedded worldにおけるCortex-M85集積マイコンの2回目のデモンストレーションである。そのデモンストレーションでは、Cortex-M85の特徴であるSIMD(Single Instruction Multiple Data)/ベクトルプロセッサーの「Helium」に焦点を合わせた。すなわち、Heliumを利用したAI推論処理のデモンストレーションを2件実施した。
このうち1件は、英Plumerai(プルメライ)の人検知アプリケーションのデモンストレーションである(図2)。これまで同アプリケーションはMPU(マイクロプロセッサー)のLinux上で稼働させるのが一般的だったが、今回は処理能力が高いCortex-M85を集積したことで、マイコンでも無理なく稼働できるようになったという。さらに、アプリケーション起動時間が20秒から1秒に短縮できたというメリットなどを紹介した。
もう1件のデモンストレーションでは、モーター制御アプリケーションにおけるAI利用の故障予知/保全機能を見せた(図3)。開発中のマイコンでは、ブラシレスDC(BLDC)モーター制御プログラムと動作異常検知プログラムの両方が稼働する。AI処理ではプラットフォームの「TensorFlow Lite for Microcontrollers」とニューラルネットワーク用フレームワーク「CMSIS-NN」を利用している。200MHzのCortex-M33マイコンで15クロック必要だったAI処理が、開発中のCortex-M85マイコンでは2クロックで済むとする。