スタートアップのセンシング(東京・港)は、スマートフォンで撮影した動画からストレス状態などを分析する技術を近く実用化する。提携するメディカル・データ・ビジョン(MDV)が手掛けるPHR(Personal Health Record、個人健康情報)アプリへ2023年春にも実装する予定だ。利用者本人や家族だけでなく、ペットの体調管理にも利用できる。
肌の色から血流の状態を分析
センシングの非接触型生体情報取得技術である「SENSINGアプリケーション」は、肌のカラー映像を色素別に抽出する「色素成分分離」と呼ばれる技術が核になっている。同社は大学との共同研究によりスマホに搭載されているRGBカメラで撮影した肌の映像を色素成分分離し、血流の状態を分析する技術を確立した。
着目したのが、血液の赤血球に含まれるたんぱく質のヘモグロビンだ。ヘモグロビン自身が赤色素を含んでいるため、その量や濃度が肌の赤みを左右する。運動して血流が増えると顔が赤くなったり、貧血で青ざめたりするのをイメージすると分かりやすい。また、血液は心臓の拍動によって流れていることから、肉眼では分からないレベルの軽微な色の変化は常に生じている。色素成分分離によって、こうした軽微な変化を検出できるようになる。
血流のリアルタイムな変化からはどのようなことが分かるのか。まず血流変化の直接的な原因である脈拍を見る。脈拍の変動周期を解析することで、副交感神経の機能を反映する高周波(High Frequency:HF)成分、副交感神経と交感神経の機能を反映する低周波(Low Frequency:LF)成分が求められる。
交感神経と副交感神経(両者で構成されるのが自律神経)のバランス(LF/HF)はストレス指標としてよく使われている。リラックス状態ではLF/HF値が低くなり、逆に興奮状態では高くなることが知られている。またLFとHFの和は自律神経の「トータルパワー」と呼ばれ、値が小さいほど疲労がたまった状態を示している。センシングの金一石代表取締役CEO(最高経営責任者)によれば、「こうした幾つかの指標を組み合わせることでストレス状態を含む体調を可視化できる」という。
脈拍からストレス状態を評価する一連の分析プロセスは確立された手法である。センシングの技術の特徴は、分析の起点となる脈拍を非接触で測定する点だ。同社によれば接触型の心電計と比較して脈拍は99%、LF/HF値は90%以上の精度で測定できるという。特殊な装置を身につける必要がないため「日常のデータを取りやすい」(金CEO)