日本の鉄道は世界で最も時間に正確といわれる。その強みに基づく国際規格ISO24675-1「鉄道分野-輸送計画のための運転時分計算-第1部:要求事項」が2022年10月14日に制定された。日本が提案して議論を主導し、成立にこぎつけた。
規格制定の狙いは、国内鉄道事業者の海外展開だ。海外での鉄道の建設や運行といった事業では、仕様書に「○○規格に準ずる」と書かれることが多い。列車の定時運行に関して、ほぼ世界一といえるノウハウや実績を日本は持っているのに、海外で適用しようとしたら規格が異なっていて修正を余儀なくされる、という事態は避けたい。先回りして日本のやり方を規格にしておくべきだ、と鉄道総合技術研究所の鉄道国際規格センターが中心になって動いた。
良いダイヤは遅れない
ISO24675-1は、ダイヤ作成の基礎となる運転時分の計算に必要な12の入力項目を規定した。運転時分とは、駅を出発して次の駅に到着するまでの時間であり、近年ではコンピューターを使って計算するのが通常である(図1)。12項目は「線路の勾配」などの設備に関するデータ、「車両の重さ」など車両に関するデータ、「停車または通過の別」など運転条件によるデータから成る。「多くが物理的な量で、(力学などの)物理的理論による計算に用いる」〔鉄道総研鉄道国際規格センター主査(上級)の川之上俊博氏〕という。
さらに、計算が妥当かの検証方法を規定。例えば、「線路の勾配」だけを増加させた場合には、運転時分が大きくなれば、計算が間違っていないと考えられる。このように、1項目の変化による運転時分の増減を12項目それぞれで確認する、と規定した。
この規格が対象とするのは「ダイヤの計画業務」だ。「正確な運行には、ダイヤの妥当性が前提となる。ダイヤが妥当でないと、定時性を守りようがない」(鉄道総研鉄道国際規格センター管理課長の平井 力氏)。規格の議論を担当したISO(国際標準化機構)の作業部会はTC 269/SC 3/WG 3で、担当は「輸送計画業務(Railway timetabling)」。同ワーキンググループはコンビーナ(国際主査)を平井氏、セクレタリー(幹事)を川之上氏が務める(図2)。
鉄道総研鉄道国際規格センターは2017年から国内鉄道事業者やメーカーが規格原案などの検討を始め、2018年5月にWG 3に提案、2022年9月に国際規格化が可決され、2022年10月14日に発行された。偶然だが、日本にとっては鉄道150周年の記念日だった。