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 半導体の市場は拡大を続けている。電子機器の頭脳を担う半導体は、スマートフォンやクルマの自動運転、クラウドコンピューティングなど、今後も広い用途で使われていく見通しである。日本は半導体分野で重要な位置を占める一国といえる。各種データをひもとくと、世界における現在地と今後の課題が見えてきた。

半導体出荷は増加傾向

 世界における半導体出荷額は年々増加している。英調査会社Omdia(オムディア)によれば、2020年時点での同出荷額は4736億6300万米ドル(1ドル=131円換算で約62兆円)だった。同社の予測(2022年公表時点)によれば、2025年に7235億3200万米ドル(1ドル=131円換算で約94兆7800億円)まで増える見通しである。中でもコンピューティング分野などに使われるロジック半導体やDRAM(Dynamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)に伸長の兆しがある(図1)。

図1 世界半導体出荷は増加傾向
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図1 世界半導体出荷は増加傾向
ロジック半導体などが好調(出所:Omdiaのデータを基に日経クロステックが作製)

 出荷先地域別で動向を見ると、中国については約半分を占めるなど「世界の工場」であることがあらわになる(図2)。世界の電機系企業が中国に工場を設置しているため、そこにめがけて出荷されるためである。ただ、この現状は変わりつつある。米国が主導して対中国半導体規制を強めつつあるため、今後中国の割合は減少しそうだ。

図2 半導体出荷先の半数を占める中国
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図2 半導体出荷先の半数を占める中国
世界でも多くの電機系分野の企業が中国に工場を置く。結果的に出荷先地域では中国がかなりの割合を占める状況である。なお、APACは日本、中国、香港以外のアジア諸国(オーストラリアを含む) 、EMEAはヨーロッパ全域、中東、アフリカ諸国を指す(出所:Omdiaのデータを基に日経クロステックが作製)

半導体サプライチェーンは変革期

 半導体は今や「産業のコメ」を超えて、一国の行く末を占う戦略物資と化した。スマホやクルマ、通信、医療、現代兵器まであらゆる最先端製品に使われることから、各国が確保に躍起になっている状況である。

 キープレーヤーとなるのは、米国や中国、日本や台湾、韓国、ドイツやオランダなど欧州といった地域である。中国は、直近で自国内での半導体生産能力を伸ばしている。米国がこれに対して危機感を持ち、中国に対する先端ロジック半導体関連の規制によって、押さえ付けを強めている。中国が目指す「軍事の現代化」に先端ロジック半導体が大きく関わるため、米国は中国内で、特に先端品の量産を阻止したい考えだ(図3)。

図3 キープレーヤーは6つの国・地域
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図3 キープレーヤーは6つの国・地域
米中半導体摩擦の状況下で、半導体サプライチェーンは変革期を迎えようとしている。米国は「世界の工場」である中国の半導体分野での急成長を危険視し、日本やオランダと共同で対中半導体規制を強める。企業側でのキープレーヤーとなるのは、世界3大ファウンドリーとされる台湾TSMC(台湾積体電路製造)、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、米Intel(インテル)の3社である。欧州には先端ロジック半導体の量産に欠かせないEUV(極端紫外線)露光装置を唯一製造するオランダASMLがある。日本は製造装置や材料が強みである他、2022年にはファウンドリーであるRapidus(ラピダス、東京・千代田)が設立されている。半導体生産能力のデータは米Knometa Researchの調査に基づく、2021年末時点のIC(集積回路)ウエハー製造能力の世界シェア(200mmウエハーでの月産換算)である(出所:Knometa Researchのデータや複数の取材を基に日経クロステックが作製)