ツムラは2023年4月、漢方薬の生産ラインにおいて原料の自動選別機を稼働させる。漢方薬の原料となる「生薬」は植物の根や葉など複雑な構造をしたものが多く、選別の自動化が難しかった。人工知能(AI)を活用した選別機により自動化を実現し、将来的には選別の無人化も視野に入れる。
生薬の選別は「匠の技」
ツムラは119種類の生薬を取り扱い、それらを組み合わせて129種類の医療用漢方薬を製造している。生薬をそのまま煮出す「煎じ薬」などの形態もあるが、ツムラでは主に、成分を抽出して顆粒(かりゅう)状にする「エキス顆粒」として製品化している。生薬は主に植物の根や葉などの各部位を乾燥させたものだが、セミの抜け殻や鉱物といった生薬も存在する。
生薬の色や太さといった性状や品質は、医薬品の規格基準書である「日本薬局方」に加え、ツムラが独自に設けた基準でも規定されている。工場に運ばれてくる段階ではこうした基準を満たさない生薬が混在しているため、これをより分ける必要がある。
しかし乾燥させた根や葉などは、「生の野菜などと比較すると複雑な形状をしている場合が多い」(ツムラの担当者)。そのため選別の自動化が難しく、従来は作業員が目視で選別していた。「選別作業には匠(たくみ)の技といえるほどの熟練が求められ、その技の継承が課題になっている」(同)という。また、多くの人員を割く必要がある上、目を酷使することから身体的負担も大きかった。
こうした課題を解決すべく手を組んだのが、AIとハードウエアを組み合わせたソリューションを展開するロビット(東京・板橋)である。両社は生薬を自動選別する装置の共同開発を進め、2023年2月20日には資本業務提携を発表した。ロビットが発行する第三者割当増資による新株式をツムラが引き受けており、出資額は4億9900万円である。
落下中の対象物をAIで選別
生薬の自動選別に用いるのはロビットが2022年5月に発表した外観検査ソリューション「TESRAY Gシリーズ」だ。TESRAY Gは指先サイズから手のひらサイズの検査対象を想定し、色彩だけで判別するのが難しい異物や不良品を除去できる。AI技術を活用した画像処理アルゴリズムと、そのAI技術を前提とした独自のハードウエアを組み合わせた。
TESRAY Gでは検査対象を運ぶベルトコンベヤーの途中に段差が設けてある。この段差部分で落下中の検査対象をカメラで撮影し、AIによって画像解析する。この解析は検査対象の落下途中に完了し、異物や不良品と判断された場合は段差の途中で空気圧によってはじき出される。結果、検査対象物は正常か異常かに選別された状態で分かれて着地し、以降の工程に進む。
TESRAY Gは落下中という短時間に異物や不良品を選別するため、AIというソフトウエア面だけでなく、装置を構成するハードウエア面でも工夫した。その1つが計算を担うコンピューターを装置内に組み込んでいることだ。クラウドなど外部のコンピューターとネットワークでつなげるのに比べると、撮影から選別までのタイムラグを小さくできる。また検査対象が重ならないようにコンベヤー上でならす機構も用意し、撮影や選別に適した落下時の軌跡となるようにコンベヤーの速度も調整している。
画像の取得方法も工夫した。ロビットの新井雅海代表取締役CEO(最高経営責任者)兼CTO(最高技術責任者)は「TESRAY Gでは2台のカメラを用いて異なる角度から撮影している。対象物の形状を立体的に認識できるため、人間の感性に近い基準で判定できるAIを実現できる」と説明する。従来はスキャナー用のカメラを用いて撮影した色彩の情報だけから異物かどうかを判定していた。
学習させる教師データは2方向から撮影した画像のため、色彩だけでなく形のゆがみなどの要素も含めた複雑な選別ができるようになる。ツムラとの共同開発では同社が取り扱う119種類の生薬のうち、選別の難易度が比較的高い形状をしている1種類について教師データを用意しAIを構築した。技術開発は既に終了し、2023年4月からその生薬を選別する工程で実際に稼働させる予定だ。今後は対象とする生薬の種類を拡大していくとしている。