全樹脂電池を開発するAPBは3月27日、サウジアラビア国営石油会社であるSaudi Arabian Oil Company(Saudi Aramco、サウジアラムコ)との協業に向けて業務提携すると発表した。APBは海外企業などとの協業を進め、難航していた全樹脂電池の量産を「2026年度からの大規模量産化」として再始動したいとする。「まずは150億円の資金調達を実施し、高速量産に向ける」とAPB 取締役副社長 兼 TRIPLE-1(トリプルワン、福岡市) 取締役副社長の大島麿礼氏は意気込む。
全樹脂電池は、電極を含めてほぼすべてを樹脂で形成するLi(リチウム)イオン2次電池(LIB)の一種。APBが掲げる同電池の従来のLIBと比べた利点は主に3つ。(1)高い安全性(2)低価格(3)高エネルギー密度――である。再生可能エネルギー向けの定置用蓄電池などで需要を見込むという。
APB/トリプルワン副社長に聞いた
この全樹脂電池は、当初計画からの遅滞が目立つ。2021年に量産を開始としていたが、2023年3月時点でまだ実現していない。しかも、2022年12月には、三洋化成工業が保有するAPBの一部株式を、半導体開発などを行う事業とは一見関係なさそうなトリプルワンに譲渡した。トリプルワンが保有するAPBの株式は結果として33%を超え、2023年3月時点でAPBの筆頭株主となっている。APBの副社長に就任した大島氏に、同社の現状や今後の展開を聞いた。
トリプルワンは2022年12月、APBの株式譲渡を受けると発表しました。なぜ、トリプルワンがAPBの株式を取得したのですか。
トリプルワンが実現したい未来像と合致したからだ。トリプルワンは(現時点では)半導体を手掛ける会社だが、将来的には(半導体を使った)カーボンニュートラルやメタバース、スマート社会の実現を目指している。そうした未来にはデジタルインフラを動かす電力が必要だった。
APBは2021年から量産すると言っていたにも関わらず、現時点では量産の気配が見られません。どうなっているのでしょうか。
私はトリプルワンとAPBの副社長として、(APBの株式取得の後)APBのてこ入れに動いてきた。今は全樹脂電池の安定製造がようやくできるようになり、いくつかの顧客にサンプル品、工業製品として出荷できるようになった。ただし、高速量産技術はまだ確立途中で、もう少し時間がかかる。
我々は全樹脂電池のロードマップを3つの段階で考えている。〔ステップ1〕工業製品として世に出す、〔ステップ2〕国内工場での高速量産、〔ステップ3〕海外工場を含めた大規模量産化である。現状は〔ステップ2〕への転換期。2年後となる2025年ごろに〔ステップ3〕に移りたい。
「製造の難しさとパートナー探し」で足踏みしていた
確かに、2021年からの2年間は量産への動きが停滞していた。これまでは〔ステップ2〕となる量産に移れず足踏みしていた。
まず、工業製品として製造するのに手間取った。製造工程が従来のLIBと異なるため、これまでのノウハウを使えなかったからだ。例えば、電池内に水分を入れないため内部を真空状態にする工程に壁があったが、現在は乗り越えている。安全性の評価もクリアしている状況である。
次に、資金提供者を見つけるのに難航した。〔ステップ1〕の世に出す段階では、(基礎技術を持つ)素材系の国内企業などから資金提供を受けてきたが、量産となると、その量産の受け皿となるパートナーが必要だ。従来のAPBの経営陣はここへのアプローチが弱かった。トリプルワンが入ることで、日本ではなく海外を中心に、相当数のパートナーと交渉を進められるようになった。
2021年に設立した第一工場である「APB福井センター武生工場」(福井県越前市)では、現状は主にセル製造の整備が完了した段階。今後は2026年度の大規模量産化に向けて組み立て工程の整備を進め、一貫した高速製造ラインを設置する。セル製造の工程のほうが組み立ての工程よりも難しいため、今後は加速できると考えている。