世界の電気自動車(EV)市場は拡大を続けている。各地域における政策や規制の動向に左右されるものの、自動車メーカーの現状のEV戦略を基にすると今後も販売台数の増加が見込まれる。
各社のEV販売目標は壮大
EVシフトを進める欧州の自動車メーカーは、大規模なEVの販売目標を掲げている。例えば、ドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)は2030年の新車販売台数の5割をEVにする。同社の例年の新車販売台数を基にすると、400~500万台に相当する。
欧州勢でも特にEVに傾注するのが、高級車ブランドだ。多くがEV専業となる方針を打ち出している。欧州Stellantis(ステランティス)の「Maserati(マセラティ)」など高級車4ブランドやスウェーデンVolvo Cars(ボルボ)は、2030年までに販売する全ての新車をEVにする。ドイツMercedes-Benz Group(メルセデス・ベンツグループ)も市場環境次第という条件付きだが、同年には新車販売を全てEVにする計画だ。VWグループのドイツAudi(アウディ)は2026年以降に発売する新型車を全てEVとし、2033年に内燃機関(ICE)搭載車の販売をやめる。
日本勢では、トヨタ自動車がEVだけでなくハイブリッド車(HEV)や燃料電池車(FCV)、水素エンジン車などの開発にも注力しており、全方位のパワートレーン戦略を敷く。ただ、同社も2030年には350万台のEVを販売する目標を掲げている。このうち100万台は高級車ブランド「レクサス」のEVである。同ブランドも欧州勢を追うように、2035年に世界販売の全てをEVにする方針だ。
ただ、EU(欧州連合)が2023年3月末、2035年以降も条件付きでICE搭載車の販売を認めることで合意した。これまでは同年からHEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)などを含むICE搭載車の販売を完全に禁止する予定だったが、合成燃料(e-fuel)のみを使う場合に限定して認められる。EV化に突き進むとみられていた欧州の方針変更は、世界の自動車メーカーのEV戦略に影響を与える可能性もある。
電池の確保が重要課題に
各社のEV戦略のカギを握るのが、最重要部品とも言える電池の確保だ。自動車メーカーはEVの販売目標の達成へ向けて、電池の開発や工場の建設などに多額の資金を投じる。電池メーカーへの出資や電池メーカーとの合弁工場の立ち上げが目立つ(図1)。自動車メーカーが自社で電池工場を立ち上げる動きも出てきた。
VWは2030年までに欧州だけで6カ所の電池工場を立ち上げ、合計で年間240GWhの生産能力を確保する計画だ。出資先のスウェーデンNorthvolt(ノースボルト)や中国・国軒高科(Gotion High-Tech)といった電池メーカーとの合弁工場も含まれる。競合のトヨタも、同年までに電池の年間生産能力を280GWh程度にすると公表している。
今後注目されるのは、北米における電池を中心としたEV関連の投資だ。米バイデン政権下で2022年8月にインフレ抑制法(IRA)が成立し、EVは条件を満たせば税控除を受けられる。対象となるためには、EVの最終組み立てをメキシコとカナダを含む北米で実施し、米国など特定の国で生産した電池や電池材料を使う必要がある。
IRAの成立後、BMWが米国にEVと電池の工場を、メキシコにも電池工場を建設すると発表している。さらに、VWも米国にEVの新工場を、カナダに電池工場を立ち上げる。EVのサプライチェーン(供給網)を北米で完結させるため、今後もこうした動きは増えそうだ。