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 マイナンバーカードを使ったコンビニ証明書交付サービスで、別人の住民票などが発行されるトラブルが立て続けに発生した問題は、国がシステム開発を手掛ける富士通Japanに対しサービスの一時停止と総点検を要請する事態となった。対象となる自治体は全国で200弱に上り、現場では戸惑いの声が聞こえる。

河野デジタル相「大変大きな事案」

 「富士通Japanに対して二度とこうした事態が起こらないよう、システムの運用を停止して、徹底的に再点検を行うよう、デジタル庁から要請を行った」

 河野太郎デジタル相は2023年5月9日の閣議後記者会見において、厳しい口調でこう述べた。富士通Japanに対し、システムを一時停止したうえで、総点検するよう5月8日に要請したという。「自治体の皆様にはご迷惑をおかけするが、大変大きな事案であるため富士通Japanの点検にご協力をいただくようお願いをするとともに、政府側も開発事業者(富士通Japan)の管理体制についてしっかり確認を進めていきたい」(同)とした。

河野太郎デジタル相
河野太郎デジタル相
(出所:デジタル庁)
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関連記事: デジ庁が富士通Japanにシステム停止・総点検要請、コンビニ交付サービス誤発行で

 コンビニ証明書交付サービスを利用した際に別人の住民票などが発行されるトラブルは2023年3~5月にかけて横浜市、東京都足立区、川崎市、徳島市で立て続けに発生した。原因はいずれも富士通Japanが手掛けるシステムの不具合だった。

 同社はこれまでも不具合が明らかとなるたびに問題の箇所を特定し改修を完了したと説明してきたが、デジタル庁はトラブルが相次いで発生している事態を重く見て「早急に運用を停止して問題が起きない確認をしてもらいたいということで、運用を停止してテストするよう要請した」(河野デジタル相)。河野デジタル相によると、富士通Japanが開発したコンビニ証明書交付サービスのシステムを利用する自治体は200弱あり、現場の混乱は必至だ。

自治体「今後対応を考えていきたい」

 「コンビニ交付サービスを停止してしまうと、市民への影響が大きい。システムを止める必要があるのかなどを含め、きちんと我々で判断していきたい」。川崎市の担当者はデジタル庁からの要請に対し、こう話す。

 同市は2023年5月2日、コンビニ交付サービスで証明書が誤発行されるトラブルに見舞われた。「コンビニ交付の利用件数は2023年3月に1日当たり1200件あり、点検のために止めるのは難しい。トラブルが発生した際にすでに点検を実施しており、さらに(点検を)実施すべきなのかを含め、ITベンダーと相談していく」(同市)とした。

 2023年3~4月にトラブルに見舞われた足立区も「区民サービスへの影響などを考慮のうえ、ITベンダーと相談する」と説明。2023年3月にトラブルが発生した横浜市も「デジタル庁から具体的な連絡は入っておらず、再度点検が必要なのかも含め、今後対応を考えていきたい」とした。

 仮に点検のためにコンビニ交付サービスを停止すれば、住民に大きな不便を強いることになる。コンビニ交付の利用者が役所で交付を受けることになれば、窓口業務の混乱にもつながりかねない。トラブルが発生した自治体はすでに点検を実施していることもあり、ひとまずは様子見の姿勢で一致した。

 不具合が発生していない自治体はどうか。総点検は原則、富士通Japanのサービスを採用している全ての自治体が対象となる。

 富士通Japanのシステムを利用する世田谷区は2023年5月11日、同社からシステム点検の依頼文書を受け取ったという。同区で住民票の写しや印鑑登録証明書などのコンビニ交付サービスの利用数は2021年度で約25万件と、全体の約3割を占める。

 「長期間のシステム停止は区民サービス低下につながる。誤交付はあってはならないので、必要な点検があればシステム停止はやむを得ないが、どの程度の停止期間なら耐えられるか、今は具体的な状況が分からないので判断できない」(同区担当者)とした。具体的な今後の対応については富士通Japanからの連絡を待って検討するという。

 熊本市は2023年5月13日午後7時15分、コンビニ交付サービスにおける「印鑑登録証明書」の発行を停止した。富士通Japanと総点検について相談を進める中、「トラブルが発生した自治体と構成が似ており、同様のトラブルが発生する可能性がある」との報告を受けたためだ。5月15日午後4時時点でサービスは再開しておらず「再開時期は未定」(同市)とした。

 富士通Japanは「デジタル庁の要請に基づき、各自治体と個別に相談のうえ、総点検に向けた話し合いを進めている」(広報)とした。