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 避けて通れないソフトウエアの法規制が自動車業界に迫っている。それは国際連合(UN)規制の「UN-R155」(サイバーセキュリティー)と「UN-R156」(ソフト更新)である。この対応で難しいのが、ECU(電子制御ユニット)とソフトの“組み合わせ爆発”だ注1)。自動車部品の管理システムに精通するバビエカ代表の枚田哲也氏に、課題の本質や対応策を解説してもらった。(日経Automotive編集部)

注1)学術的には「組合せ」との表記が一般的。

 あるECUをソフト更新すれば、他のECUに何らかの影響を与えるかもしれない。今や、クルマに搭載されるECUは100個近くになり、ソフトの行数は1億行ともいわれている。しかも、これを車両のライフサイクルにわたって管理する必要がある。もう、従来の仕組みでは対応できないのだ。

 自動車メーカーはこれまで、「部品表」を基幹として据えてきた。生産に関わる部品を管理するためのシステムで、生産中の部品構成だけを管理すればよかった。そして、ソフトはECUと一体のものとしても何の不便もなかったのである。しかし、そのような時代はあと数年で終了してしまう(図1)。部品表のアップデートが必要だ。

図1 避けて通れない法規対応
図1 避けて通れない法規対応
「UN-R155」(サイバーセキュリティー)と「UN-R156」(ソフト更新)の適用が日欧で始まった。(出所:国連や国土交通省の資料を基に日経Automotiveが作成)
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ソフトウエア部品表が必須に

 事が簡単でなくなったのは、無線通信によってECUのソフトを更新するOTA(Over The Air)の本格普及が見えてきたからである。カーナビゲーションの地図更新といった実害が少ないものならまだしも、自動運転など、車両の制御に関わる機能更新にもOTAを適用するようになってきた。ソフト更新に関する影響範囲を明らかにすることが法規で求められるのは、当然の成り行きである。

 自動車製造の部品表は、製造行為のための部品表である。製造後のメンテナンスについてはディーラーで実施することが前提だった。リコールなどで部品の無償交換が必要な場合には、大まかな製造時期で交換対象となる製品を特定できれば、あとはディーラーで確認すれば問題はなかった。

 今、法規が求めているのは自動運転などのソフトを前提にして、世界中で使われている車両について「変更の影響範囲を明らかにせよ」ということだ。つまり、保守用の部品表システムを構築しろと言っているのである。

 航空機などのように数が限られていればあまり問題はない。これが自動車となると、製品数が100万や1000万という単位になってくる。大量生産なので、ロット単位で影響範囲を絞れるかもしれないが、現実的にその影響範囲を明らかにするのは容易な作業ではない。問題が見つかったソフトについては、どのように修正し、どのように工場や市場に修正を展開していくか、ソフトのライフサイクル全般にわたる管理が必須なのである。

規制別のソフト管理

 ソフト定義車両(Software Defined Vehicle、SDV)は、ソフト中心の電子機器に変わった自動車のことを指す言葉である。エンジンやシャシーといった機械的な部品で造られていた自動車を、電子機器とソフトで構成された機能群として実現する。インフォテインメント系の機能などは、法規に基づく厳しい規制は存在しない。

 しかし、車両制御系システムを構成する機能で規制が存在するものは、30以上もある(表1)。そして、これらの機能は、自動車の認証規制の対象なので、届け出た仕様と数値に変更があった場合には、当局への届け出が必要となる。

表1 ソフトが関与する規制のリスト
表1 ソフトが関与する規制のリスト
車両制御系システムでは30項目以上ある。(出所:筆者が作成)
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