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 自動車向け変速機大手のジヤトコ(静岡県富士市)が、自転車部品の市場に参入する。電動アシスト自転車向けの駆動ユニットを開発した。2024年度に量産を開始する予定だ。

ジヤトコが電動アシスト自転車向け駆動ユニットを開発
ジヤトコが電動アシスト自転車向け駆動ユニットを開発
自転車の後輪部分に配置する。写真は開発した駆動ユニットを搭載した試作車。(写真:日経Automotive)
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ジヤトコ本社の敷地内で試乗する様子
(動画:日経Automotive)

 ジヤトコは日産自動車の子会社で、CVT(無段変速機)では「世界トップシェア」(ジヤトコ)を誇る。ただ、電動化の進展によって内燃機関(ICE)車に搭載するCVTやAT(自動変速機)の需要は減少していく見込み。ジヤトコは日産の電動パワートレーン開発におけるパートナーとして設計業務の一部を担当するが、将来への危機感は強い。

 「電動パワートレーンは構造がシンプルなので、(歯車を複雑に組み合わせる)CVTやATと同じ台数を量産できても収益は落ちる。その穴を埋められるように、新しい成長領域をつくっていかなければならない」。こう語るのはジヤトコ常務執行役員コーポレート事業推進部門の小川英二氏である。

 変速機事業で蓄積した技術を横展開できる新規事業を模索するなかで、電動アシスト自転車に目を付けた。3段の変速ギアとアシスト用モーターから成るユニットを開発し、「数社の自転車メーカーと搭載を前提とした議論を進めている」(同氏)という。

変速機とモーターを一体化

 ジヤトコのユニットは、車輪中心部のハブに変速ギアを搭載するいわゆる「内装式」である。内装式の変速機では現在、「シマノの一強状態」(自転車業界に詳しい関係者)だという。シマノの電動アシスト自転車向けの駆動ユニットは、後輪側に内装式の変速機を、ペダル部分にアシスト用モーターを配置する別体タイプである。

 シマノの牙城に挑むジヤトコは、変速機とアシスト用モーターを一体にして差異化を図る。開発を担当したジヤトコ新規事業推進部主担の岡本宗幸氏によると、「2つの部品を統合したユニットは自転車向けの量産品では業界初」という。搭載位置は後輪のハブ。自転車のフレームやペダル部分は既存品を使えるため、自転車メーカーとしては少ない設計変更で電動アシスト自転車に仕上げられる注)

注)シマノが変速機とアシスト用モーターを別体にする利点は、量産規模を確保しやすいこと。電動アシストユニットの有無にかかわらず同じ内装式の変速機を使えるため、製品を共通化できる。

 今回の開発品は、出力250Wのアシスト用モーターと2組の遊星歯車機構、クラッチで構成する。遊星歯車機構の1つはモーターと組み合わせる減速機である。もう1つが変速機で、クラッチの締結状態によってギア比を変えられる。

変速機とアシスト用モーターを統合
変速機とアシスト用モーターを統合
ジヤトコは開発品を、「人とくるまのテクノロジー展 2023 YOKOHAMA」(2023年5月24~26日、パシフィコ横浜)で一般向けに初披露する予定。(写真:日経Automotive)
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 遊星歯車機構やクラッチを組み合わせて限られたスペースに詰め込むのは、「CVTの考え方そのもので、部品レイアウトの技術があったからこそ実現できた」(小川氏)。ユニットの質量は「3kg台の前半」(岡本氏)である。

 生産設備は「既存のものを活用できるため、新たに投資する必要はない」(小川氏)という。生産拠点は「中国か日本」(同氏)で、顧客となる自転車メーカーと議論しながら最終決定する。