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 トヨタ自動車グループで新たに不正が発覚した。自動車向け特殊鋼大手の愛知製鋼が2023年5月17日、寸法公差が規定から外れた製品(公差外れ品)を顧客に納品していたことを公表した(図1)。トヨタグループでは不正が相次いでおり、トヨタ自動車の販売店による車検不正(2021年)と日野自動車のエンジン不正(2022年)、豊田自動織機のエンジン不正(2023年3月)、ダイハツ工業の衝突試験不正(同年4月)に次ぐ、5社目の不正事案となる。

図1 愛知製鋼のWebサイトと不正が見つかった丸棒鋼材
図1 愛知製鋼のWebサイトと不正が見つかった丸棒鋼材
エンジンのクランクシャフトなどの加工に使用される。規定の公差から外れた製品を出荷していたことが判明した。(出所:愛知製鋼のWebサイト画像を基に日経クロステックが作成)
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 公差外れの不正が見つかったのは、知多工場(愛知県東海市)が製造する特殊鋼。具体的にはクランクシャフトなどエンジン部品の材料として多用される、直径が10~100mmの丸棒鋼材で、長さが6000mmの製品だ。日本産業規格(JIS)および顧客と取り決めた仕様(以下、顧客仕様)では公差が「-ゼロmm~+40mm」であるのに対し、愛知製鋼は「-ゼロmm~+60mm」の公差外れ品を出荷していた(図2)。

図2 丸棒鋼材と長さと公差
図2 丸棒鋼材と長さと公差
長さは6000mmであるのに対し、JIS規格品および顧客仕様品では「-ゼロmm~+40mm」の公差が求められていた。これに対し、愛知製鋼は公差が「-ゼロmm~+60mm」の公差外れ品を出荷していた。(出所:愛知製鋼の資料を基に日経クロステックが作成)
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 公差外れ品であるという認識は28年前の1995年からあったことが愛知製鋼による社内調査で判明している。だが、一部製品について「是正処置を後回しにした」(同社)という。

 不正が発覚したきっかけは、顧客からのクレームである。愛知製鋼の丸棒鋼材を材料に使う生産ラインでチョコ停(設備や生産ラインが一時的に停止するトラブル)が頻発し、顧客がその原因を調べたところ、丸棒鋼材の寸法が最大で20mm長過ぎる点に気がついた。この顧客からのクレームを受けた愛知製鋼が社内調査を実施したところ、知多工場が公差外れ品を出荷していたことが分かったというのが、今回の不正発覚の経緯だ。

冷却による収縮分を「想定し切れず」

 愛知製鋼は、丸棒鋼材の長さを最大でも6040mm(6000mm+最大公差40mm)に収めることを狙って知多工場の工程を組んでいる。ところが、狙い通りの長さの丸棒鋼材を造るのは工程能力的に難しく、6040mmを超えて最大で6060mmまで長くなるケースが発生し得るという。

 その理由は、熱による収縮分を見極め切れなかったからだ。丸棒鋼材は500℃程度の高温に熱した状態で切断する。この切断時に同社は、規定の公差の中央値である6020mmの長さが得られるように丸棒鋼材を切る。ところが、このときの丸棒鋼材は熱によって膨張した状態だ。切断後、丸棒鋼材の温度は常温まで下がっていく。すると、今度は丸棒鋼材は収縮に向かう。この加熱による膨張と冷却による収縮を「想定し切れず」(愛知製鋼)、正しい公差である製品(長さが6000~6040mmの製品)を造れないケースがあるという。

 こうして長さが6040mmを超えた場合は、作業者が正しい公差に収まるように切断することになっていたが、「能力的に追い付かず」(同社)に公差外れの長い製品をそのまま出荷していた。

 同社には「是正しなければならないという認識はあった」。それでも30年近く不正を続けた理由については、問題の重大性に対する認識が薄かったからだと思われる。