中国の電池メーカーGotion High-Tech(国軒高科)†は2023年5月19日、リン酸鉄リチウム(LFP)系リチウムイオン2次電池(LIB)をベースにエネルギー密度を高めた「リン酸マンガン鉄リチウム(LMFP)」を開発したと正式に発表した(図1)注1)。シリーズ名は「Astroinno」である。
今回の発表では、セルだけでなく電気自動車(EV)用電池パックとしてのスペックも明らかにした。電池パックとしての重量エネルギー密度は190Wh/kg。これは、三元(Ni-Co-Mn、NCM)系LIBの多くのEV向け電池パックを上回り、航続距離が1000kmのEVも実現可能だとする。一方で、量産が軌道に乗れば、LMFPはNCM系LIBに比べてはるかに低コストにできる可能性が高いため、NCM系LIBの存在理由を脅かす技術になりそうだ。もちろん、LFP系LIB(以下LFP)の代替も進む可能性がある。Gotionは2024年に量産を始めるとしている。
Gotionが製品発表で一番乗り
LMFPは、製造コストは安いがエネルギー密度の点で、NCM系LIBに見劣りがしていたLFPの弱点を解決する電池技術といえる。
LFPの正極活物質は、Liイオンとリン酸鉄(FP)から成るが、LMFPでは、鉄(Fe)の一部をマンガン(Mn)で置換する。すると、正極の起電力が高まり、結果として電池のエネルギー密度が高まる。
高品位なMnの材料コストは現時点で鉄鋼材の数倍はするが、高品位ニッケル(Ni)と比べると約1/10と安いことから、LMFPを量産すれば、価格をLFPとそれほど変わらない水準にできる可能性が高い。
このため、中国の主要電池メーカーの多くはこぞってLMFPの開発を始めている。業界トップの中国CATL(寧徳時代新能源科技)は、LMFPにさらに別の金属元素を加えた「M3P」を開発中で、2023年にも量産を始める計画だ。自動車メーカーでテスト中のケースも多い。ただし、製品発表はまだで、LFMP関連ではGotionが一番乗りした格好となった。
セルではNCM系に届かない
Gotionが発表したLMFPのセルのエネルギー密度は240Wh/kg。セルレベルでは、同250~280Wh/kgのNCM系LIBに届いていない。体積エネルギー密度は日本での展示では544Wh/kgとしていたが、今回の発表では525Wh/kgだとする。
実用上非常に重要な充放電サイクル寿命は、日本での展示時には、0.5Cの充放電時に25℃で2000回以上。
今回の発表では、充放電レートは示さずに室温で4000回、高温環境では1800回。18分でほぼ満充電にするような超急速充電では1500回。現行のLFPに比べるとやや少ないが、NCM系LIBとの比較では同水準、もしくはより長寿命だといえる。