G7広島サミットの前日である2023年5月18日、岸田総理大臣と西村経済産業大臣は総理大臣官邸でグローバル半導体企業トップとの意見交換会を行うなど 「総理の一日」ページ 、日本政府の半導体への取り組みは揺るぎない(図1)。政府の動きを受けてか、多くの組織や個人が半導体への関心を持つようになってきた。半導体の技術を中心に、最新動向を一望できる国際会議「2023 Symposium on VLSI Technology and Circuits(以下、VLSIシンポジウム2023)」 ホームページ が2023年6月11~16日に京都で開催される。VLSIシンポジウム2023では半導体メーカーだけでなく、独自半導体開発に力を入れる大手IT企業の米Google(グーグル)と米Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ)も登壇する。
Symposium on VLSI Technology and Circuitsという正式名称にあるように、この国際会議では半導体(VLSI)の製造技術(Technology)と回路技術(Circuits)の両方が議論・紹介され、半導体技術を広く知るためには好都合といえる。学会系の国際会議のため、メジャーなセッション(Technology Session, Circuits Session, Focus Session)にはこれから実用化される新技術を披露する研究所や大学の講演が並ぶ。一方で、現在使われている最新の技術やその方向性を示す産業界からの講演(基調講演や招待講演、Workshop、Forumなど)も多数ある。
冒頭に紹介した日本政府の取り組みの背景には、いわゆる地政学的リスクが潜んでいる。今や半導体なくしてはほとんどの機器は動かず、社会が停滞してしまう。万一のリスク発生時に、全量は無理だとしても一部でも半導体を国内で製造可能にしようと、政府は海外の企業に対して日本国内に工場を建設するように働き掛けたり、立ち上げ中の半導体製造の国内企業Rapidus(ラピダス)を支援したりしている。このような半導体をめぐる最近の動きや、半導体周りの技術的な変化を表1にまとめた。
技術的な変化の根底には、製造に使う半導体プロセス技術の微細化スピードが遅くなっていることがある。いわゆるMooreの法則の終焉(しゅうえん)が近づいている。このため、今までのようなペースで半導体が処理するデータ量を上げにくくなってきた。一方でデジタルトランスフォーメンション(DX)に象徴されるように、半導体で処理すべきデータ量は減少するどころか増加の一途をたどる。半導体プロセス技術の微細化ペースダウンと、半導体で処理すべきデータ量の増加のギャップを埋める様々な技術が開発されている。以下、この記事では、VLSIシンポジウム2023のAdvance Programと報道機関向け事前説明会(2023年4月25日に実施)をベースにして、表1にあげた半導体の動向や技術の変化に関して、今回の国際会議で聞くことができる主な講演を紹介する。
TSMCデザインテクノロジージャパンが3nm SRAM発表
まず、日本国内製造の強化に関連した講演である(表2)。現在、日本国内の製造強化で最も話題になっている企業は、熊本県に新工場を建設中の台湾TSMC(台湾積体電路製造)だろう。そのR&D(研究開発)組織の1つ「TSMCデザインテクノロジージャパン」が、筆頭著者となっている論文がVLSIシンポジウム2023に2件ある(以下、特に断りがない場合、論文筆頭著者の所属機関を講演者とみなす)。
2件の論文はどちらも、TSMCの3nm世代プロセスで造る埋め込み(組み込み)SRAMに関連する。1件は「A 3-nm 27.6-Mbit/mm2 Self-timed SRAM Enabling 0.48 - 1.2 V Wide Operating Range with Far-end Pre-charge and Weak-Bit Tracking」(講演番号:C9-5)というタイトルである。この論文を、VLSIシンポジウム2023委員会はハイライト論文(以下、委員会ハイライト論文)の1つに選んでいる(図2)。この組み込みSRAMは高集積密度と広電圧範囲を両立している点が特徴である。ラピダスも講演する。同社では2nm世代という超微細プロセスばかりが注目されているが、VLSIシンポジウム2023ではShort Course 1において、複数のチップレット(小さなダイ)を1パッケージに収める技術について語る。
半導体が製品やサービスの差異化に重要な役割を担うと考える企業は増えている。特に米国の大手IT企業「GAFAM:Google Amazon Facebook(現在Meta Platforms)Apple Microsoft」は独自半導体の開発に積極的だ。VLSIシンポジウム2023ではGoogleとMeta Platformsが登壇する(表3)。GoogleからはParthasarathy Ranganathan氏(Engineering Fellow/VP)が基調講演(講演番号:PL1-2)に立ち、半導体の未来について語る。Meta Platformsでは新社名を意識してか、AR(Augmented Reality)/VR(Virtual Reality)/MR(Mixed Reality)やメタバースをテーマにしたTechnology / Circuits Joint Focus Sessionにおいて、招待講演(講演番号:JFS2-1)と論文発表(講演番号:JFS3-2)を行う。