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3Dの仮想建物を歩き回る

 その昔、まだコンピューターもなく手で図面を描いていた時代には、立体を3Dのまま表現して他者に伝える術は乏しく、その解決策として2Dで表現する方法が用いられた。しかし次元を落とした表現方法は、時として必要な情報を失う。殊にこの建物のように3次元的に非常に複雑な形状を持つ建物では、2Dでは伝えきれない情報がたくさんある。

 そこでアラップは設計当初からBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)モデルを作成し、外壁のジオメトリー(幾何学)確認から設備スペースの確認、構造部材と設備配管の干渉チェックに至るまで、全てを3Dモデルで行った。全体で機能する構造や精緻に配置された外壁のPCaのピースも、3Dモデルだからこそ正確に把握できたといえる。

 また、3Dモデルは発注者や建築家、施工者とのコミュニケーションを円滑にするのにも役立った。作成した3DモデルをベースにVR(仮想現実)技術を導入することで、設計段階から建物の内部を歩き回り、仕上げやコンセントの位置に至るまでの細かい調整が可能となった。施工段階では3Dプリンターを使って30cm大の外壁模型を作製し、施工者と模型を手にしながら型枠の分割や窓の配置の検証を行うことで、2Dの図面を見ているだけでは伝えきれない情報を伝達できるようになった。

BIMモデル(写真:© Arup)
BIMモデル(写真:© Arup)
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新たなランドマークへ

 建築家の素晴らしいビジョンとアラップの多岐にわたるエンジニアリング、そして最先端の技術が融合したことで実現した美術館、V&Aダンディー。2019年には複数の建築賞を受賞した。開館以来7500人以上の方がメンバーシップ登録をされているという。

 実は、筆者は入社してすぐにこのプロジェクトの基本計画を担当した。人生初めての出張もエディンバラ出張で、右も左も分からない中、必死に外壁の設計をしたのを覚えている。

 今年、ロンドンに出張した際にダンディーまで足を延ばし、10年ぶりにこの建物と再会を果たした。10年ぶりの再会は、知らない顔と懐かしい面影の発見の連続で、非常に感慨深いものだった。

 これからもこの美術館がダンディーの、そしてスコットランドのランドマークとして、人々に愛され続けることを願う。

富岡 良太(とみおか・りょうた)
アラップ東京事務所/構造エンジニア
富岡 良太(とみおか・りょうた) 京都大学工学研究科建築学専攻修了後、2010年にアラップ東京事務所に入社。2015年より2年間アラップロサンゼルス事務所に勤務後、2017年4月より東京事務所復帰。日本・米国を含めた様々な国のプロジェクトで構造設計に携わる。一級建築士。
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)/執筆協⼒
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9⽉よりケンプラッツ、⽇経アーキテクチュア・ウェブ、⽇経 xTECHにて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載。