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 シンガポールの中心部に、同国で最高の高さを誇る290mのタワーが建った。繁華街にありながら、足元に約1万4000m2の都市公園を擁する。グオコタワーと名付けられたこの超高層ビルの完成は2018年。開発したのは、同国の大手デベロッパーであるグオコランドだ。マレーシアの大手銀行を持つホンリョングループの傘下にあり、19年6月時点で、保有資産総額は100億ドルに上る。

高層ビルの密集したエリアに、広い緑地空間を設けたグオコタワー。周辺に立つビルの近接度合いと、イベントができそうな都市公園の様子がよく分かる(写真:Ying Yi Photography)
高層ビルの密集したエリアに、広い緑地空間を設けたグオコタワー。周辺に立つビルの近接度合いと、イベントができそうな都市公園の様子がよく分かる(写真:Ying Yi Photography)
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グオコタワーの遠景(写真:Ying Yi Photography)
グオコタワーの遠景(写真:Ying Yi Photography)
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 意匠設計は、米国の大手設計事務所スキッドモア・オウイングス・アンド・メリル(SOM)が担当。アラップは構造設計、ファサードエンジニアリング、および環境設備設計を手掛けた。

 建物は天井高さ2.9mの高級オフィス、住宅、ホテル「ソフィテル」、商業スペースから成る。延べ面積15万6000m2の複合用途開発で、MRT(地下鉄)タンジョンパガー駅に直結している。いわゆるTOD(公共交通指向型開発)だ。

グオコタワーは地下鉄の上に立ち、駅に直結している。周辺は、幅の狭い道路や、歴史的建造物であるショップハウス、基礎が浅い建物などに囲まれており、施工は慎重さが求められた(資料:Arup)
グオコタワーは地下鉄の上に立ち、駅に直結している。周辺は、幅の狭い道路や、歴史的建造物であるショップハウス、基礎が浅い建物などに囲まれており、施工は慎重さが求められた(資料:Arup)
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 タンジョンパガーといえば、シンガポール島の南端に位置し、ビジネス街にも、観光名所であるチャイナタウンにも近い繁華街だ。グオコタワーのプロジェクトの特徴は、1万4000m2の都市公園を確保したことだ。都市公園の一部には軒下15mの巨大なキャノピーを設け、強い日差しを避けて一息つける「シティールーム」としている。ここでは、1年を通してイベントやアクティビティーを楽しめる。

PVパネルは、タワーの屋上とキャノピーに配置。広場にタワーの影が掛かっても、キャノピー下の明るさを確保しつつ、発電量を最大化するため詳細な検討を行った。キャノピーでは風を通し、通年で快適に使用できるように解析を行った(写真:Ying Yi Photography)
PVパネルは、タワーの屋上とキャノピーに配置。広場にタワーの影が掛かっても、キャノピー下の明るさを確保しつつ、発電量を最大化するため詳細な検討を行った。キャノピーでは風を通し、通年で快適に使用できるように解析を行った(写真:Ying Yi Photography)
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 敷地は地下鉄駅に隣接しており、電車の運行を止めないことが条件だった。そのため、施工期間の短縮や安全性が最優先された。短工期の中で、施工可能なソリューションを提案することも、アラップの責任範囲だった。

低層部の6層で、2つのタワーを接続。 64階建てのタワーは、地上1~37階がオフィス、38階が機械室、39~64階が住宅だ。21階建て、高さ105mのタワーには、地上5~20階にホテルが入り、最上階を機械室とした(資料:Arup)
低層部の6層で、2つのタワーを接続。 64階建てのタワーは、地上1~37階がオフィス、38階が機械室、39~64階が住宅だ。21階建て、高さ105mのタワーには、地上5~20階にホテルが入り、最上階を機械室とした(資料:Arup)
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 特に施工期間を短縮する上で、地下躯体や低層部を鉄筋コンクリート(RC)造ではなく、鉄骨(S)造とすることが不可欠だった。日本でS造は一般的だが、海外ではどんなに高層なビルでもRC造にすることが多い。

 グオコタワーは、シンガポールで初のRC造とS造のハイブリッド構造となった。S造はRC造よりもコスト高だが、今回は、工期を短縮できるという利点が、追加のコストに見合うものだと考えられ、採用された。

 可能な限り、鉄骨の接合部にはボルトを使用した。S造としたことで、加工は積極的にオフサイトで行い、自動切断機や自動溶接機を使用して、品質管理と工期短縮に一役買った。結果として、躯体は当初の計画よりも、2カ月早く完成した。