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3Dモデルで掘削の影響や長期的な沈下を検討

 地下鉄や周辺の建造物が近接しているため、掘削の影響やグオコタワーの長期的な沈下の調査や検討は、3Dモデルを使用し、かつプロジェクトのフェーズごとに分けて行った。検討の目的は、主に地下鉄の運用に支障がないことを確かめるためだったが、設計の効率化にも寄与した。

アラップは工期短縮の1つの方法として、逆打ち工法を提案した。着工後は、土壌と、隣接する既存構造物の複雑さのために、3Dモデリングを使用して、掘削の影響と建物の長期的な沈下を調査した(写真:Arup)
アラップは工期短縮の1つの方法として、逆打ち工法を提案した。着工後は、土壌と、隣接する既存構造物の複雑さのために、3Dモデリングを使用して、掘削の影響と建物の長期的な沈下を調査した(写真:Arup)
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 3Dモデルでの検討結果を踏まえて、MRT駅の既存のラフト基礎と同じレベルにグオコタワーの基礎スラブをそろえることに決めた。既存地下鉄への影響を少なくするためだ。タワーの基礎スラブが浅いと、圧力によって地下鉄に力がかかってしまう。逆に、基礎スラブが深すぎると、掘削時に地下鉄の荷重がタワー側にかかる。基礎を同じレベルにそろえることで、お互いの荷重が影響し合わない状態にした。

 ここではパイルド・ラフト基礎を採用することで、基礎躯体量を30%低減し、杭(くい)の本数も減らせた。メインのタワーについては、4m厚のマットスラブを、径1.8m、長さ40mの杭で支持している。

支保工の削減や、工期短縮のため、高層タワーの床にはデッキプレートを使用した(写真:Ying Yi Photography)
支保工の削減や、工期短縮のため、高層タワーの床にはデッキプレートを使用した(写真:Ying Yi Photography)
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 グオコタワーのオフィスと商業部分は、シンガポールの建築環境性能評価制度である「グリーンマーク」のプラチナ認証と、米国の同「LEED」のプラチナ認証を受けた。住宅部分はグリーンマークのゴールドプラス認証を受けている。

 これに寄与したのは、省エネルギーと節水、公共緑地(都市公園)の提供だ。特に水不足はシンガポールにとっては常に懸案であり、本プロジェクトでも節水には力を入れている。屋上の雨水貯留施設と地下の貯水施設により、雨水はほとんど流出することなく、灌漑(かんがい)やトイレの洗浄水として再利用される。水の使用量は、シンガポールの環境基準の半分程度だ。

オフィスロビーの内観(写真:Ying Yi Photography)
オフィスロビーの内観(写真:Ying Yi Photography)
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 建材もサステナビリティーを考慮して選択している。例えば、木材は全てFSC(森林管理協議会)認証を受けたものを採用した。LEEDの木材に関する基準をクリアするのは困難で、どこの森で育った木か、だけではなく輸送方法や、木材と輸送でそれぞれにかかるコストなどの詳細も問われる。

 また、可能な限り再生鋼(電炉鋼)を使用した。再生鋼としたのは材料輸送から加工に至るプロセスを通して、二酸化炭素排出量を大きく削減するためだ。建設中の粉塵(ふんじん)や騒音の低減といったその他の環境目標を達成する上では、S造にしたことによる貢献が大きい。

 太陽光発電(PV)パネルによる発電と、エネルギー効率の高い設備機器の使用などによって、グオコタワーは同規模の建物と比較して約31%減の省エネルギー性能を確保できると試算されている。

グオコタワーは、設計も施工方法もサステナビリティーを重視しており、最先端と言える要素を多分に含んでいる。今後、シンガポール内外の開発のモデルとなることだろう(写真:Ying Yi Photography)
グオコタワーは、設計も施工方法もサステナビリティーを重視しており、最先端と言える要素を多分に含んでいる。今後、シンガポール内外の開発のモデルとなることだろう(写真:Ying Yi Photography)
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 18年のオープン後、グオコタワーは数々の設計関連の賞を受賞。最上部にある住宅は、シンガポールで誰もがうらやむ、最も高級な不動産だといわれている。19年には、掃除機で有名な会社の創業者が、最上階のペントハウスを約58億円で購入したとか……。話題に事欠かないグオコタワーである。

プロジェクト概要

  • 所在地:シンガポール
  • 延べ面積:15万6000m2
  • クライアント:GuocoLand Group
  • 意匠設計者:SOM、architects 61
  • 構造設計・環境設備設計者、ファサードエンジニアリング:Arup
  • 施工者:Samsung C&T Corporation
  • 竣工時期:2018年
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)
菊地 雪代(きくち・ゆきよ) アラップ東京事務所アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。一級建築士、宅地建物取引士、PMP、LEED評価員(O+M)。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。