全3092文字
PR

公共スペースを30に分割して避難方法を検討

 まず「避難方法」から見てみよう。アラップは、空港内の公共スペースを30ゾーンに分割した。固定された壁で区切るのではなく、シャッターやドアの組み合わせによって区切り、通常時には空港利用者の移動を妨げることがないように計画した。

 ただし、特に火災時の危険が高いゾーンについては、2000m2以下の広さとなるように壁でしっかり区切り、床は1時間半の耐火、その他の建材は2時間の耐火性能を確保した。

 火災が起きた場合には、出火場所を検出して、その近くの避難階段は閉鎖し、他の階段を使うようにスマートサインで利用客などを誘導する。この避難方法のシミュレーションを実施し、専門家会議の承認を得た。

最悪の火災が起こった場合のシナリオに基づいて、各種のシミュレーションを行った(資料:Arup)
最悪の火災が起こった場合のシナリオに基づいて、各種のシミュレーションを行った(資料:Arup)
[画像のクリックで拡大表示]

 排煙について中国の建築関連法規では、この北京大興国際空港よりもはるかに小さい空間を想定して設置要件を決めており、そのまま適用することはできなかった。一方で、空港の火災時に利用者を完全に退去させるのは稀(まれ)で、出火場所から離れた所で通常業務を続けることが多い。火災安全対策も、そうした点を考慮して、快適さと業務の継続性を重視した。

 最終的には、ターミナルを6つの排煙区画に分割した。各排煙区画の屋根部分にある、金属とガラスの間に排煙口(パッシブベント)を設け、そこから煙を排出できるように計画した。

排煙についてはシミュレーションを実施し、排気口が開かなかった場合など、仮説を立てながら検証した。結果は設計に反映している(資料:Arup)
排煙についてはシミュレーションを実施し、排気口が開かなかった場合など、仮説を立てながら検証した。結果は設計に反映している(資料:Arup)
[画像のクリックで拡大表示]

 空港ターミナルの地下には、高速鉄道(新幹線)、地下鉄、北京市行きの空港急行列車、高速道路が乗り入れる約8万m2の交通ハブがある。通常、空港ターミナルと鉄道駅の火災安全計画は個別に作成する。だが、本プロジェクトの両者の相互依存性を考えると、一体的に計画するのが自然な流れだ。

 アラップは、鉄道と空港ターミナルをつなぐ乗り換えホールをメインの避難動線空間として提案。このホールが安全な場所となるよう、屋根に開口部を設置して屋外に避難するための手段を十分に用意し、小売店舗や燃料貯蔵などいわゆる「燃え草」を排除した。

行動シミュレーションによって、手荷物カートの必要数と配置場所、さらにそれらを管理するスタッフ数なども算出した(写真:Hufton+Crow)
行動シミュレーションによって、手荷物カートの必要数と配置場所、さらにそれらを管理するスタッフ数なども算出した(写真:Hufton+Crow)
[画像のクリックで拡大表示]

 中国では、鉄骨造は一定の耐火性能を確保するために、耐火塗料で保護する必要がある。今回、最悪の火災が起こったというシナリオに基づいて、屋根架構への影響をシミュレーションしてみたところ、フロアレベルから約6~9mの高さにある屋根トラスのみ防火すればよいという結果となり、屋根の大部分は耐火塗料が不要となった。この判断によって、数百万人民元(数千万円~1億円)のコスト削減につながった。

北京大興国際空港は、国内線と国際線がフロアで分かれているため、垂直移動が煩雑になる。そこで、シミュレーションによって、エレベーターやエスカレーターなどの位置とサイズを決定した(写真:Hufton+Crow)
北京大興国際空港は、国内線と国際線がフロアで分かれているため、垂直移動が煩雑になる。そこで、シミュレーションによって、エレベーターやエスカレーターなどの位置とサイズを決定した(写真:Hufton+Crow)
[画像のクリックで拡大表示]