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 日本で、CLT(直交集成板)を用いた建築物の普及に向けて、法律が順次改定されて数年。CLTを用いたプロジェクトが続々と完成している。オーストラリアに目を向けると、シドニー近郊にあるマッコーリー大学内にも2棟の木造建築がそれぞれ2017年7月、20年7月に完成した。

 いずれも大断面集成材と、大判のCLTを用いたエンジニアリングウッドによる構造である。古典的な材料である木材を現代のテクノロジーを用いて加工し組み上げることによって、中大規模木造の大学施設を短工期で合理的につくった。その詳細事例をアラップシドニー事務所の構造エンジニアが紹介する。(以上、菊地 雪代/アラップ)

 マッコーリー大学のキャンパス内に立つ「インキュベーター」は、学生や研究者へ起業家訓練・教育プログラムなどを提供し、スタートアップの支援を行う施設である。16年7月に設計者が選定されてから竣工するまでわずか1年。17年7月にオープンした。

意匠設計は豪州の設計事務所Architectus。アラップは、構造設計、ファサードエンジニアリング、設備設計、環境コンサルティング、音響設計、照明デザイン、土木設計を担当した(写真:Murray Fredericks)
意匠設計は豪州の設計事務所Architectus。アラップは、構造設計、ファサードエンジニアリング、設備設計、環境コンサルティング、音響設計、照明デザイン、土木設計を担当した(写真:Murray Fredericks)
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 短い工期である上に、コンペ時は敷地が定まっておらず、建物用途も明確ではなかった。加えて、将来、建物用途が変化しても柔軟に対応でき、解体移築も可能な建築が求められた。

外周のV字柱で鉛直荷重、水平荷重共に負担することで、15m×32mの大空間を形成し、インテリアの壁や外装フレームを全て重力と水平力から解放した。(写真:Murray Fredericks)
外周のV字柱で鉛直荷重、水平荷重共に負担することで、15m×32mの大空間を形成し、インテリアの壁や外装フレームを全て重力と水平力から解放した。(写真:Murray Fredericks)
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 昨今、欧州や日本ではCLTや集成材、LVL(単板積層材)などのエンジニアリングウッドの有用性がうたわれている。豪州でもエンジニアリングウッドの重要性は注目を集めているが、中大規模の木造となると供給が間に合わず、欧州からの輸入に頼っているのが現状だ。

 この建物では、外周のV字柱を除き、床組みと屋根組み構造には全て欧州から輸入したスプルース材を使用している。

ユニット化した屋根の施工写真。外部に露出するV字柱には、タスマニア産の広葉樹ビクトリアンアッシュを採用した。(写真:Strong build)
ユニット化した屋根の施工写真。外部に露出するV字柱には、タスマニア産の広葉樹ビクトリアンアッシュを採用した。(写真:Strong build)
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 CLTと集成材によりユニット化した床下部分は設備スペースとした。また、屋根組みも照明デザインと一体でユニット化することで、現場で素早く組み立てられる構造とした。屋根は、21m×3.6mのユニットを工場で22体製作。交通量の少ない深夜から早朝にかけて運搬した。たった5人の職人により面積約2000m2の屋根が4日間で組み上がった。