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 いわずと知れたタイの首都、バンコク。出張や旅行で訪れたことがある人も多いであろう。王宮や寺院といった魅力的な観光地の数々や、日系企業の支店や支所が集積する一方で、一時期は“世界一”とも揶揄(やゆ)された交通渋滞で悪名高い都市でもある。

 近年、この交通渋滞を解消するため、都市鉄道の建設が急ピッチで進んでいる。今回は、最新のMRT(地下鉄)のブルーライン延伸プロジェクトについて、バンコクに駐在する構造エンジニアが紹介する。(以上、菊地 雪代/アラップ)

ワットマンコン駅の外観。アラップはイタリアンタイデベロップメントと共に、ワットマンコン駅とサムヨット駅を設計した(写真: Saravut Eksuwan)
ワットマンコン駅の外観。アラップはイタリアンタイデベロップメントと共に、ワットマンコン駅とサムヨット駅を設計した(写真: Saravut Eksuwan)
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 MRTブルーラインは、タイのバンコク市内を環状で囲む地下鉄路線(一部、地上駅あり)である。1997年に着工し、2004年にはバンコク北部に位置するバンスー駅から国鉄バンコク駅に隣接するフアランポーン駅間の路線を開通した。同区間の営業と並行して延伸工事を進め、ついに20年3月、バンコク初の環状鉄道の運行を開始した。

 この延伸により、これまで鉄道でアクセスできなかったチャイナタウンや王宮といった旧市街へのアクセスが便利になった。観光客はもちろん、車での通勤や通学を余儀なくされていたバンコク西部の住民が広く利用できる路線となり、ピーク時には東京の山手線を彷彿(ほうふつ)とさせるほど混雑している。

地下鉄の延伸によって、チャオプラヤ川で分断されていたバンコク西部からのアクセスを改善できた(写真: Arup)
地下鉄の延伸によって、チャオプラヤ川で分断されていたバンコク西部からのアクセスを改善できた(写真: Arup)
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 ブルーライン延伸プロジェクトは全長約28kmに及び、19駅の新駅を建設した。駅舎やトンネル、換気塔(ベンチレーションシャフト、トンネル内の換気兼非常用脱出経路)、保線を含む土木工事にデザインビルド方式を採用した。全工事を5件の施工契約に分割し、アラップはタイ国内大手のゼネコンであるイタリアンタイデベロップメントと共に区間1のワットマンコン駅、サムヨット駅、および2か所の換気塔の土木設計、構造設計、地質エンジニアリング、建築設計、鉄道エンジニアリング、火災安全設計、トンネル設計そして乗客の行動解析を担当した。工事5件のうち1件は保線工事のみ。駅舎、トンネル及び換気塔の設計と工事は4区間、4件の施工契約に分割した。

チャオプラヤ川の下を通り抜けるトンネル。タイで最も深い位置にある土木構造物だ(写真: Arup)
チャオプラヤ川の下を通り抜けるトンネル。タイで最も深い位置にある土木構造物だ(写真: Arup)
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 ワットマンコン駅とサムヨット駅はバンコク最大の観光地でもあるチャイナタウンに隣接している。この地域にはSino-Portuguese様式と呼ぶ、中国とポルトガルの建築様式が融合した建物が立ち並んでおり、バンコクの旧市街の象徴的な景観を作り上げている。

 駅舎の設計では、この歴史的な景観を守りつつ、国内外から集まる大人数の観光客に対応できる動線計画や空間構成が求められた。完成後はタイで最も美しい駅との評判から人を集め、駅そのものが新たな観光スポットとなっている。

ワットマンコン駅構内。中華的な装飾が施された内観。連日多くの人が写真を撮りに来る(写真: Saravut Eksuwan)
ワットマンコン駅構内。中華的な装飾が施された内観。連日多くの人が写真を撮りに来る(写真: Saravut Eksuwan)
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