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解体のためのデザインを考える

 「ゴミを減らす」のではなく、「ゴミの出ない仕組み」をつくるにはどうすればよいか。製品やサービスのライフサイクルにわたる仕組みを見直し、生産と利用の持続可能なサイクルを目指さなくてはならない。C2Cが投げかける課題だ。

 リサイクルには分別が欠かせない。ペットボトルと缶は分別されて初めてリサイクルができる。建物でも同じことがいえるが、建物を解体して材料ごとに分別するのは意外と難しい。例えば鉄筋コンクリートは鉄筋とセメント、骨材が強固に結合しており、そのまま再利用はできない。鉄骨などの金属が塗装されていれば、リサイクルするために不純物を取り除く工程が必要になる。基礎の撤去も容易ではない。

 生産と利用の持続可能なサイクルを実現するには、労力やエネルギーをなるべく使わず、材料ごとに解体できることが望ましい。本プロジェクトはこの点に向き合い、“解体”を設計した。

モックアップの屋根を組み立てる様子。レゴブロックのように積み上げていく。コルクブロックの重さは1個当たり16kg以下(写真:Gavin Maloney)
モックアップの屋根を組み立てる様子。レゴブロックのように積み上げていく。コルクブロックの重さは1個当たり16kg以下(写真:Gavin Maloney)
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 コルクハウスは壁から屋根に至るまで、1268個のコルクブロックからできている。凸凹に成型したコルクブロックはネジや接着剤を使わずに組み上げられる。古来、日本でも使ってきた組み手の要領だ。手作業で施工できる上、解体時もコルクブロックを破壊することなく取り外し、そのまま再利用もできる。

 建物の基礎を支える杭も後から引き抜くことを想定し、英国内では道路標識に使うことが多いスクリューパイルを採用した。スクリューパイルとは鋼製の、ネジのように貫入する杭で、解体時は逆回転することで簡単に引き抜ける。このプロジェクトで使ったものは直径6cm、長さ2m程度の大きさだ。

モックアップは大学の実験施設で一度組み立て、強度を検証した後に解体。耐候性を検証するため屋外で再度組み立てた。素地のコルクブロックのみで仕上げた屋根は、水はけに課題があることが判明し、本設では一部に樋(とい)として金属板を追加した(写真:Gavin Maloney)
モックアップは大学の実験施設で一度組み立て、強度を検証した後に解体。耐候性を検証するため屋外で再度組み立てた。素地のコルクブロックのみで仕上げた屋根は、水はけに課題があることが判明し、本設では一部に樋(とい)として金属板を追加した(写真:Gavin Maloney)
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屋根裏を下から見上げると、トップライトから光が優しく降り注ぐ(写真:Alex de Rijke)
屋根裏を下から見上げると、トップライトから光が優しく降り注ぐ(写真:Alex de Rijke)
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 これまで建物において、コルクは仕上げ材として使用されることがあったが、構造部材として用いることはアラップのエンジニアリング経験上では初めてだ。材料試験を行い、強度を検証して設計を進めたが、長期疲労などのデータは短期的な試験では得られないため、他の木材や竹といった材料についての知見を活用した。

コルクのせん断強度と剛性を検証する試験は大学で実施した(写真:Gavin Maloney)
コルクのせん断強度と剛性を検証する試験は大学で実施した(写真:Gavin Maloney)
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 コルクに構造体と断熱材、両方の機能を持たせることは課題の1つだった。コルクの密度を高くすると剛性が上がり強度は高まるが、断熱性能は落ちる。そこで実験と計算によって、この2つの必要性能を満たす最適なコルクの密度を追求した。

 また、コルクブロックの軽さによる課題もあった。屋根の乾式接合自体は古くからある工法だが、材料の自重による圧縮で安定を確保することが定石だ。コルクブロックの場合は重みが足りず、風であおられて浮き上がる恐れがあったので、屋根のトップライト部にガラスなどで重量を持たせてバランスを取った。

屋根の断面図。幅約350㎜、高さ180㎜のコルクブロックで構成し、コルクで構成した屋根の面外変形を木材のリング梁(はり)で抑え、トップライト部分の浮き上がりを抑える(資料:Arup)
屋根の断面図。幅約350㎜、高さ180㎜のコルクブロックで構成し、コルクで構成した屋根の面外変形を木材のリング梁(はり)で抑え、トップライト部分の浮き上がりを抑える(資料:Arup)
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 王立英国建築家協会(RIBA)は19年、コルクハウスの建物のライフサイクルに対する新しいアプローチを評価し、英国内の優れた建築プロジェクトに贈るRIBA Awardsにノミネート。さらに、総工費100万ポンド(約1億4千万円)以下の建築プロジェクトを対象としたStephen Lawrence Prizeも受賞した。

 革新的な挑戦に必ずしも巨額の予算は必要ない。コルク材の新しい使い方を切り開いたこの住宅は、環境への配慮と経済性、快適性を兼ね備え、サスティナビリティーの1つの道を示した。

プロジェクト概要

コルクハウス(Cork House)

  • 所在地:英国バークシャー州イートン
  • 設計:Matthew Barnett Howland with Dido Milne and Oliver Wilton
  • 施工:Matthew Barnett Howland
  • 構造設計、火災安全設計:Arup
山口 真矢子(やまぐち・まやこ)
アラップ東京事務所/プロジェクト・マネージャー
山口 真矢子(やまぐち・まやこ) 2014年京都大学大学院を修了後、鉄道会社に建築職として入社。19年1月、アラップ東京事務所に入社。建築工事・改修プロジェクトのマネジメント、建築や都市に関わるリサーチ、事業コンセプトの立案などを手掛ける。
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)/執筆協力
アラップ東京事務所、アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー。2011年9月よりケンプラッツ、日経アーキテクチュア・ウェブ、日経クロステックにて、アラップが関与したプロジェクト紹介の記事を連載。