解体のためのデザインを考える
「ゴミを減らす」のではなく、「ゴミの出ない仕組み」をつくるにはどうすればよいか。製品やサービスのライフサイクルにわたる仕組みを見直し、生産と利用の持続可能なサイクルを目指さなくてはならない。C2Cが投げかける課題だ。
リサイクルには分別が欠かせない。ペットボトルと缶は分別されて初めてリサイクルができる。建物でも同じことがいえるが、建物を解体して材料ごとに分別するのは意外と難しい。例えば鉄筋コンクリートは鉄筋とセメント、骨材が強固に結合しており、そのまま再利用はできない。鉄骨などの金属が塗装されていれば、リサイクルするために不純物を取り除く工程が必要になる。基礎の撤去も容易ではない。
生産と利用の持続可能なサイクルを実現するには、労力やエネルギーをなるべく使わず、材料ごとに解体できることが望ましい。本プロジェクトはこの点に向き合い、“解体”を設計した。
コルクハウスは壁から屋根に至るまで、1268個のコルクブロックからできている。凸凹に成型したコルクブロックはネジや接着剤を使わずに組み上げられる。古来、日本でも使ってきた組み手の要領だ。手作業で施工できる上、解体時もコルクブロックを破壊することなく取り外し、そのまま再利用もできる。
建物の基礎を支える杭も後から引き抜くことを想定し、英国内では道路標識に使うことが多いスクリューパイルを採用した。スクリューパイルとは鋼製の、ネジのように貫入する杭で、解体時は逆回転することで簡単に引き抜ける。このプロジェクトで使ったものは直径6cm、長さ2m程度の大きさだ。
これまで建物において、コルクは仕上げ材として使用されることがあったが、構造部材として用いることはアラップのエンジニアリング経験上では初めてだ。材料試験を行い、強度を検証して設計を進めたが、長期疲労などのデータは短期的な試験では得られないため、他の木材や竹といった材料についての知見を活用した。
コルクに構造体と断熱材、両方の機能を持たせることは課題の1つだった。コルクの密度を高くすると剛性が上がり強度は高まるが、断熱性能は落ちる。そこで実験と計算によって、この2つの必要性能を満たす最適なコルクの密度を追求した。
また、コルクブロックの軽さによる課題もあった。屋根の乾式接合自体は古くからある工法だが、材料の自重による圧縮で安定を確保することが定石だ。コルクブロックの場合は重みが足りず、風であおられて浮き上がる恐れがあったので、屋根のトップライト部にガラスなどで重量を持たせてバランスを取った。
王立英国建築家協会(RIBA)は19年、コルクハウスの建物のライフサイクルに対する新しいアプローチを評価し、英国内の優れた建築プロジェクトに贈るRIBA Awardsにノミネート。さらに、総工費100万ポンド(約1億4千万円)以下の建築プロジェクトを対象としたStephen Lawrence Prizeも受賞した。
革新的な挑戦に必ずしも巨額の予算は必要ない。コルク材の新しい使い方を切り開いたこの住宅は、環境への配慮と経済性、快適性を兼ね備え、サスティナビリティーの1つの道を示した。
プロジェクト概要
コルクハウス(Cork House)
- 所在地:英国バークシャー州イートン
- 設計:Matthew Barnett Howland with Dido Milne and Oliver Wilton
- 施工:Matthew Barnett Howland
- 構造設計、火災安全設計:Arup
アラップ東京事務所/プロジェクト・マネージャー
