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 2000年シドニー五輪で使用したテニス競技会場が20年たって改修された。円形のアリーナで、改修前は観客席のみがドーナツ状の屋根で覆われていたが、このたび直径100mの膜に覆われた全天候型のアリーナに変貌を遂げた。同時に、名称も1950年代に大活躍した地元のテニス選手の名、「ケン・ローズウォール」を冠し、より親近感のあるレガシーとなった。

 設計プロセスやデジタル技術との連携によって、設計開始からわずか12カ月以内の短期間で改修を実現させた本アリーナについて、アラップ東京事務所の構造エンジニアが解説する。 (以上、菊地 雪代/アラップ)

改修後の「ケン・ローズウォール・アリーナ」外観(写真:Marting Mischkulnig)
改修後の「ケン・ローズウォール・アリーナ」外観(写真:Marting Mischkulnig)
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 改修プロジェクトが始動したのは2018年である。プロジェクトチームは、スタジアムが位置するオーストラリアのニューサウスウェールズ州行政から、20年に開催する男子テニスツアーのATPカップに間に合うように、センターコートを完全に覆う新しい屋根へと改修する依頼を受けた。国際的なテニスイベントを開催するに当たり、天候に左右されない競技場が必要となったからだ。

 プロジェクトチームは開閉可能屋根やドーム形屋根、ロングスパントラス屋根など数多くの案を検討した。既存構造物への影響を最小限に抑えられる点や、建設期間を縮められてローコストであるといった点を考慮した結果、透光性に優れるPTFE(四フッ化エチレン樹脂)膜を張った軽量なケーブル構造の屋根を採用した。

改修後の外観。2020年に撮影(写真:Arup)
改修後の外観。2020年に撮影(写真:Arup)
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竣工当時のケン・ローズウォール・アリーナ。2000年に撮影。当時の名称はシドニー・インターナショナル・テニス・センター(写真:Arup)
竣工当時のケン・ローズウォール・アリーナ。2000年に撮影。当時の名称はシドニー・インターナショナル・テニス・センター(写真:Arup)
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改修後を表すレンダリング(資料:Arup)
改修後を表すレンダリング(資料:Arup)
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改修前を表すレンダリング(資料:Arup)
改修前を表すレンダリング(資料:Arup)
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 改修には様々な壁が立ちはだかった。敷地は土壌汚染が懸念されていた。加えて、設計開始から12カ月以内に改修を完了させる時間的な制約もあったため、新たに基礎を追加しない方針とした。基礎の設計から施工、修復などの作業を考えるとスケジュール上、既存の基礎へ手を付けることは不可能だったためである。

 また、リードタイムが長くかかるケーブルとPTFE膜は、初期検討の段階で発注する必要があった。本来であれば詳細な検討を行った後にケーブルの断面を確定させるが、それでは工期が間に合わない。ケーブルの断面を制約条件とみなして詳細設計を進めることで、この問題を解消した。

改修中のアリーナ内観(写真:Arup)
改修中のアリーナ内観(写真:Arup)
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