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 米国ニューヨークのマンハッタン。いわずと知れた約59km2の半島に、約160万人もの市民が住まう世界有数の人口密集地域である。近年では公園や地下鉄駅などの再整備が進み、ますます魅力的な街となっている。このたび、また新たに、都会の喧騒(けんそう)を忘れさせてくれるような憩いの場が誕生した。その名も「リトルアイランド」だ。

 川の水面に現れた不思議な構造体は、それ自体がアート作品のようでもある。新名所、リトルアイランドの計画について、構造エンジニアが解説する。(以上、菊地 雪代/アラップ)

 マンハッタンの南西部に位置するチェルシー地区は、アートやファッションの発信地としても有名なエリアである。その西端、ハドソン川の川面に浮かぶように作られた2.4エーカーの水上公園が「リトルアイランド」だ。2.4エーカーというとピンと来ないが、9712m2。およそサッカーコート1.5面の大きさだ。

水上公園の全景(写真:Timothy Schenck)
水上公園の全景(写真:Timothy Schenck)
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 この施設は、英国ロンドンを拠点とする設計事務所ヘザウィックスタジオが設計を手掛けた。公園でありながら3つのパフォーマンス用ステージを有するエンターテインメントの場でもある。700人収容の屋外シアターに、200人収容のスポークンワード(朗読・言葉のパフォーマンス)のための小規模ステージ、3500人収容のパフォーマンススペースが公園内に点在し、それらを全長540mの遊歩道がつなぐ。そしてその全てが川に浮いている。

 世界でも例を見ない、このアイコニックな公園の設計において、アラップは構造、土木、環境設備、音響の各エンジニアリングと劇場・IT・火災安全のコンサルティング、昼光照明計画業務という多岐にわたるサービスを提供した。

 川面に浮かぶ公園のデザインは、ハドソン川に多数浮かぶ、船を係留するための木杭(くい)から着想を得たものだった。乱立する杭がポッドと呼ばれるチューリップ形の人工基盤を支える架構イメージは早々に決まった。

 材料に関しては、川の上で場所打ちコンクリート杭を打設するのは現実的でないし、鉄骨では費用がかさむ。これらを考えるとプレキャストコンクリートが最適解であることは自明だった。しかし、ここで問題が生じる。

「リトルアイランド」のデザインは、船を係留するための木杭から着想を得ている(写真:Timothy Schenck)
「リトルアイランド」のデザインは、船を係留するための木杭から着想を得ている(写真:Timothy Schenck)
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 通常、プレキャストコンクリートは繰り返しのモジュールが多いことでコスト面や生産効率などのメリットを発揮する。それぞれの部材形状がばらばらだと、このメリットが発揮できない。

 加えて、ポッド1つ1つが大き過ぎた。直径約6mのプレキャストコンクリート部材を工場で製造して現場まで輸送するには莫大なコストがかかる。この課題を解決すべく、アラップはデジタル技術を総動員して取り組んだ。