日本の意匠設計者が海外でも活躍するようになって久しいが、実際に海外プロジェクトを経験したことがあるのは、まだ少数派なのではないだろうか。台湾の南、台南市に立つ「台南市美術館・当代館(2館)」は、坂茂氏の設計だ。凹凸が多く、見るからに複雑な構成をした建物である。
海外プロジェクトを多く抱える坂氏の傍らで、日本人のエンジニアはどんなチャレンジをしていたのか? 言語や法律の違い、過酷な環境や難しい敷地条件など、プロジェクトには特有の課題があり、それらに対して解決のプロセスを踏む必要がある。竣工した建築を見るだけでは伝えきれない、隠れた物語を構造エンジニアから引き出した。海外プロジェクトを追体験していただきたい。
2019年1月、台南市に「台南市美術館・当代館(2館)」が正式にオープンした。この美術館は、近現代館と当代館の2棟から構成されており、台湾初の行政法人が運営している。科学研究や台湾で唯一の絵画修復を手掛ける美術館である。
敷地は台南市の街の中心で、商業施設や文化施設が集まる地区である。当代館はそれらの施設利用者のための地下駐車場の上部、要するに既存の駐車場を補強して上部構造である美術館を建てる、というプロジェクトである。この駐車場には戦前、台南神社が建てられていた。
当代館の意匠設計者は坂茂氏と台湾の建築家・石昭永氏である。坂氏によれば、敷地を見学して、周辺に市民の憩いの場となるような公園がないことが気になったそうだ。そこで、美術館と公園が一体に連続するようなビルディングタイプを想像し、大きさの異なるギャラリーをずらして配置し隙間から出入りできるようにしたとのこと。
また、建物を四角くすると正面性や方向性が強くなり過ぎるという理由で、台南市の街のシンボルである鳳凰(ほうおう)花をイメージして、大きな五角形のフレームをつくり、その内外に展示室となるボックスを収めた。