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違いを引き出すコラボレーション

 台湾と日本の構造設計や現場監理の違いや苦労は様々な形で現れる。

 このプロジェクトの施工者は台湾China Steelで、鉄骨ファブリケーターであるため非常に難易度の高い鉄骨製作を高度な技術力でサポートしてくれた。耐震性能を確保するため、多くの梁(はり)のフランジを現場での完全溶け込み溶接としていたが、そのフランジが大きな段差を生じていた。これは日本では、目違いとして多くの余盛りを求められるレベルであった。

 しかし、台湾にはそのような考え方はなく、可能な限り目違いの修正をするものの、厳格な性能管理は行われていなかった。日本での考え方をくみ取ってもらい、目違いの補修を行ったが、現地で定められていない日本の基準を理解してもらい、それを現場に反映してもらうのは骨の折れるプロセスだ。

屋根の環境性能を検証するために、設計の初期段階で、太陽光、日射、風の流れなど、様々なパラメーターを用いてシミュレーションを行った。屋根によって日射量の80%を遮蔽している(写真:Arup)
屋根の環境性能を検証するために、設計の初期段階で、太陽光、日射、風の流れなど、様々なパラメーターを用いてシミュレーションを行った。屋根によって日射量の80%を遮蔽している(写真:Arup)
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 台南市は年間を通じて日射が強い。巨大な五角形の屋根は、防水機能はなく、日陰をつくることで下部空間に快適な空間を提供するという機能を担っている。小さな三角形が集まってできる大きな三角形と、それらが構成する三角錐(すい)が集合しているフラクタルな形状をとっている。ここには、構造フレームと非構造フレームが混在しており、パイプトラスは構造部材、パイプに取り付けられた亜鉛メッキのプレートフレームは外装材だ。

 屋根を支えるV柱もスレンダーに見えるよう検討を繰り返し、構造トラスのフラクタル的な構成と一体化して見えるような工夫をした。

1辺48mの五角形の大屋根。構造フレームと非構造フレームが混在している(写真:Arup)
1辺48mの五角形の大屋根。構造フレームと非構造フレームが混在している(写真:Arup)
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屋根のフラクタル的な構成がよく分かる(写真:Arup)
屋根のフラクタル的な構成がよく分かる(写真:Arup)
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 鉄骨の溶接の話では、日本との違いで品質確保の難しさに触れたが、決してそのような面ばかりではない。海外、特に地震国ではスペクトル解析を採用している。建物の剛性やエネルギー吸収性能を加味した水平力を簡易に求めることが可能となり、リアリティーのある設計ができる。

 中小規模の建物では特に精度が高い。台南美術館・当代館(2館)でも採用しているBRB(座屈拘束ブレース)などは、耐力確保やエネルギー吸収性などの面で、開発国である日本よりも利用メリットを高めており、広く安全に利用されている。こんなところにも日本のガラパゴス化が垣間見える。

 お互いの違いからそれぞれの価値を見いだし、新たに適用していくことが、コラボレーションの意義であり面白さだろう。「そのやり方、いいね」と最善のものを選択するしなやかさを持ち続けたい。

美術館エントランス側から見た夕景(写真:Arup)
美術館エントランス側から見た夕景(写真:Arup)
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共同執筆者:伊藤潤一郎(アラップ東京事務所 シニア構造エンジニア)

建築概要データ

台南市美術館・当代館(2館)

  • 所在地:台湾、台南市西中区
  • 事業主・建築主:台南市政府文化局
  • 延べ面積:2万2596m2
  • 意匠設計:坂茂建築設計、石昭永建築師事務所
  • フラクタルユニットアドバイザー:京都大学 酒井 敏
  • 構造設計、建築設備設計:Arup
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)
アラップ東京事務所アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー
菊地 雪代(きくち・ゆきよ) 東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。1級建築士、宅地建物取引士、PMP。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。