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生産施設に求められた3つのポイント

 生産施設でのエンジニアリングには、3つのポイントがあった。

 第1は衛生環境だ。現代の食品安全管理プロセスに対応し、異物混入などのリスクを回避するために、クリーンルームレベル並みの衛生環境が求められた。アラップは防カビ対応材料でモックアップを作成し、発注者の旧工場で12カ月間にわたってテストを行い、カビが発生しないことを確認した。その他にも、超早期火災警報システム、泡放水システム、防爆設計、二重排気、局所加湿・加温などの機能を備えている。

建物外皮にはルーバーなどを用いて熱取得量を抑えている(写真:Zhangchao)
建物外皮にはルーバーなどを用いて熱取得量を抑えている(写真:Zhangchao)
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 第2に、エネルギーの使用量を最小限にまで削減するため、トップライトなどのパッシブデザイン手法を導入した。蒸気ボイラーの排ガス口には、熱回収装置を設置し、高温の排ガスをボイラーの予熱源として利用すると同時に、排ガス温度を200℃以上から170℃以下まで下げる。

 これにより、ボイラーの熱損失が減り、熱効率が7%向上すると試算された。エネルギー性能の最適化とともに、ビル管理システムにより、発注者はエネルギー使用量を最小限に抑えながら、高級酒生産のためのベストな環境と空気質を実現できた。

生産工程のニーズを満たすだけでなく、非常に厳しい中国緑色建築認証(2つ星A)に加え、ISO22000、HACCP、GMPに準拠した最先端の環境となった。さらに「ハブ」はLEED BD+Cシルバー認証取得も目指している(写真:Zhangchao)
生産工程のニーズを満たすだけでなく、非常に厳しい中国緑色建築認証(2つ星A)に加え、ISO22000、HACCP、GMPに準拠した最先端の環境となった。さらに「ハブ」はLEED BD+Cシルバー認証取得も目指している(写真:Zhangchao)
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 第3に、酒造工程で使用、生成するあらゆる材料や物質を最小限に抑え、公共の設備へと放出する前に、地域の規制基準以上を目指して処理を行っている。

 例えば、排水処理には、内部循環式嫌気性リアクター、パルス式嫌気性リアクター、生物学的曝気(ばっき)フィルターを使用。水処理システムは、1日当たり1300m3の供給水、同1000m3の排水、同240m3の純水を処理できる能力を備えている。

 さらに、逆浸透膜水処理装置では1日に約90トンの排水を処理し、その全てをトイレの洗浄水や敷地内の灌漑(かんがい)用水として利用している。酒造工程の副産物として出る、固体と液体を含む蒸留残渣(ざんさ)の年間量は2万40トン。100%リサイクルを目指し、水分は上記の通り処理し、乾燥した蒸留残渣は地元の農場で飼料として再利用する。

陶器の瓶(かめ)が並ぶ貯蔵棟。免震ベアリングが設置され、地震などで壷が割れない工夫がされている(写真:Zhangchao)
陶器の瓶(かめ)が並ぶ貯蔵棟。免震ベアリングが設置され、地震などで壷が割れない工夫がされている(写真:Zhangchao)
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 建物の寿命を100年に設定し、高価な酒類を地震から守るため免震対策を組み込んだ。興寧市は地震の多い地域ではないが、醸造中のお酒を保存するための陶器の瓶(かめ)が並ぶ貯蔵棟には、柱と杭基礎の間に免震ベアリングを設置している。この免震装置の効果を確認するため、広州大学で振動台実験を行い、地震時の損傷メカニズムの解明と免震支承の有効性を検証した。

生産棟は、22.5mスパンで設計し、運用上のニーズに合わせて奥行きに変化を与えている。勾配屋根は、現地の土着的な建物との調和を意識しているだけでなく、雨期の大量の降雨を処理する上でも必要な勾配となっている(写真:Zhangchao)
生産棟は、22.5mスパンで設計し、運用上のニーズに合わせて奥行きに変化を与えている。勾配屋根は、現地の土着的な建物との調和を意識しているだけでなく、雨期の大量の降雨を処理する上でも必要な勾配となっている(写真:Zhangchao)
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 本プロジェクトでは、アラップは設計に加えて、進捗管理やコスト管理などのプロジェクト・マネジメントや、移転・運用準備支援も担当した。

 生産施設という、高度な品質管理が求められる一方で、敷地の潜在的な可能性を引き出し、サスティナブル建築を実現したことで、多くのビジターを引きつけ、また従業員にはやりがいを感じさせる場となった。

にぎわいを感じさせる「ハブ」の断面イメージ(資料:Arup)
にぎわいを感じさせる「ハブ」の断面イメージ(資料:Arup)
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建築概要データ

珍珠紅(パールレッド)醸造所

  • 所在地:中国広東省梅州市興寧市
  • 発注者:GDMZH Pearl Red Spirits & Wines
  • 延べ面積:約15万m2
  • 意匠設計、構造設計、建築設備設計、火災安全設計、ランドスケープデザイン、照明デザイン、プロジェクト・マネジメント、交通計画、水処理計画:アラップ
菊地 雪代(きくち・ゆきよ)
アラップ東京事務所アソシエイト/シニア・プロジェクト・マネージャー
菊地 雪代(きくち・ゆきよ) 東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修了後、設計事務所を経て、2005年アラップ東京事務所に入社。1級建築士、宅地建物取引士、PMP。アラップ海外事務所の特殊なスキルを国内へ導入するコンサルティングや、日本企業の海外進出、外資系企業の日本国内プロジェクトを担当。