日本に暮らしていると、南アフリカの建築情報に触れる機会はなかなか無いのではないだろうか?
南アフリカ南端に位置するケープタウンは、同国第2の都市で、立法上の首都である。街には欧州風の建築が整然と並ぶ。港の周辺は米国・サンフランシスコやオーストラリア・シドニー、もしくはカナダ・バンクーバーを思わせる美しさだ。レストラン、店舗、ミュージアムなどが立ち並び、家族連れでにぎわう。また、地中海性気候で一年を通して過ごしやすいのも特徴だ。
その港に面したV&Aウオーターフロント地区に、「The Ridge(ザ・リッジ)」という新しいオフィスビルが完成した。4階建てで、執務エリアの広さは約8500m2という、コンパクトな省エネルギービルだ。経営コンサルタント会社の米Deloitte(デロイト)が入居する。アラップは、この地区の開発と運営を行うV&A Waterfront Holdingsから「サステナブル・デザインの限界を超える施設をつくってほしい」との依頼を受けた。
従来、南アフリカの商用建築は、全館空調がなされ、気密性も高い。今回、特に注力したのは、1年の大半を自然換気で過ごせるように、地中海性気候の特徴を利用することだ。建物外壁の形状を工夫して日射熱取得量を最小限に抑え、空調負荷を低減させた。その他さまざまな試みによって、運用時の二酸化炭素(CO2)排出量を最大82%削減できる設計を実現した。
The Ridgeの敷地は長方形で、敷地いっぱいに建設すると奥行きのあるフロアプレートとなり、自然光の届かない場所が生まれる。日本では、大きなフロアプレートが好まれる傾向にあるが、海外では必ずしも同じではない。例えば、サステナブルかつウエルネスに配慮した設計を推進する欧米では、窓からの奥行きが深くなり過ぎないように規制する新しいガイドラインを作成している国もある。
The Ridgeでは中央にアトリウムを設け、その両側に棟を配置することで奥行きの深さを緩和した。自然光を最大限に取り込むと同時に、換気も効率よく行われる。
The Ridgeは、南アフリカ市場におけるグリーンビルとして高いベンチマークを設定した。例えば、TABS(thermally activated building structure、躯体蓄熱型放射空調)と共に自然換気を利用したエネルギー効率の高い空調システム、南アフリカで初めて商業規模で採用されたCLT(直交集成板)のファサード、躯体内で空隙を形成するためのプラスチック製エコブリックの使用などである。
さまざまな試みの結果、このビルは、南アフリカグリーンビルディング評議会が運用する環境建築の評価制度「グリーンスター」において、最高評価である6つ星=“ワールドリーダーシップ”の認証を取得した。