全4013文字
PR

気候条件に即した設計

 では、1つずつ取り組みを見て行こう。以前は駐車場だったこの敷地は、東西方向に面して建物を配置すると、敷地の開発面積は最大化されるが、この配置は日射取得量の観点からは好ましくない。

 そこでアラップは、ファサードを折板のように折りたたむことを提案し、建築家と共に形状を決めていった。折板のようにすることでガラスは南北どちらかを向くことになる。東または西からの低角度の日射が室内に入るのを防ぎ、日射による熱負荷を最小化できた。外部に遮光用のシェードなどを必要としないため、ケープタウンの街並みを楽しめる、特徴的なジグザグのファサードが出来上がった。

日射取得を抑えるために考えた凹凸のあるファサードは、ガラスとCLT(直交集成板)を組み合わせている(写真:V&A Waterfront)
日射取得を抑えるために考えた凹凸のあるファサードは、ガラスとCLT(直交集成板)を組み合わせている(写真:V&A Waterfront)
[画像のクリックで拡大表示]

快適性重視の設計

 地中海性気候の特徴を味方にして、日射取得量を大幅に削減する設計上の工夫を凝らすことで、空調を使わず自然換気で対応できる期間を長く確保することができた。もちろん、天候によっては自然換気から機械的な冷暖房に切り替えることも可能だ。そうした「混合モード」を採用することで、利用者の快適性を最優先しながらエネルギー消費を最小限に抑えた。

設計時には、自然換気や機械換気、ミックスモード、TABSなど、建物で使用されるシステムのエネルギーシミュレーションが行われた。このように異なるシステムを一緒にモデル化するのは南アフリカでは初の試みだった(写真:V&A Waterfront)
設計時には、自然換気や機械換気、ミックスモード、TABSなど、建物で使用されるシステムのエネルギーシミュレーションが行われた。このように異なるシステムを一緒にモデル化するのは南アフリカでは初の試みだった(写真:V&A Waterfront)
[画像のクリックで拡大表示]

 4層吹き抜けのアトリウムは“煙突”として機能する。ファサードの開閉可能な窓から新鮮な空気を取り込み、オフィス空間を横切ってアトリウムのトップライトから排気する。アトリウムを積極的に活用することで、自然換気の効果を高めた。最上階ではアトリウムとオフィスを、音響面、あるいは気流面において分離し、上昇してきた暖かい空気がオフィスへ逆流することを防いだ。これは火災時の排煙も同様で、煙が4階オフィスに充満しないための工夫だ。

4階はアトリウムと空間を仕切っている。また床下の空間を利用した置換換気を行っている(写真:V&A Waterfront)
4階はアトリウムと空間を仕切っている。また床下の空間を利用した置換換気を行っている(写真:V&A Waterfront)
[画像のクリックで拡大表示]

 窓は利用者が手動で開閉できる。窓の操作ができると、密閉された完全空調の建物に比べ、利用者が温度変化に対してより寛容になるという。ビル管理システム(BMS)に連動させ、外気温や風の状態に応じて、開閉すべき最適な窓の位置を、異なる色のランプで利用者に知らせるようにした。

 例えば、自然換気に適さない天候で、かつ窓を閉めると、BMSは機械式空調を作動させる。また、局所的にコントロールすることもでき、窓を開けたときにはそのゾーンの機械換気は自動的にオフになる。

自然換気を最大限に利用している(写真:V&A Waterfront)
自然換気を最大限に利用している(写真:V&A Waterfront)
[画像のクリックで拡大表示]

 TABSは、建物内の温度を安定させ、暑さと寒さの差を縮める効果がある。The Ridgeではコンクリートの床スラブに埋め込んだパイプに冷水を循環させている。外気温23℃までは、自然換気とTABSのみで対応できる。また、輻射(ふくしゃ)の効果で室内温度が25℃でも利用者の温熱快適性は保たれるという。

 この冷房は、南アフリカ共和国の同規模・同方角に配置された建物と比較した場合、年間約2430トンのCO2に相当する省エネ効果が期待されている。

屋根に設置された太陽光発電システムは、建物のピーク電力消費量の約30%に当たる140KWを供給。スタンバイ発電機により、照明、電力、空調、エレベーターを24時間バックアップし、国による送電が制約される中、弾力的な電力供給を行っている(写真:V&A Waterfront)
屋根に設置された太陽光発電システムは、建物のピーク電力消費量の約30%に当たる140KWを供給。スタンバイ発電機により、照明、電力、空調、エレベーターを24時間バックアップし、国による送電が制約される中、弾力的な電力供給を行っている(写真:V&A Waterfront)
[画像のクリックで拡大表示]

CLTとガラスを使ったファサード

 ファサードは、木材とガラスパネルを交互に配置しユニット化されている。木部のCLTは、地元である南アフリカ産のFSC認証の松を使用し、通気性のある膜で覆った後、さらに木で仕上げをしている。これらは再生可能で、軽量でありながら強度があり、低いエンボディドカーボン(原材料調達から輸送・加工・建築の過程で生じるCO2排出量)、高い断熱性能を備えている。

 仕上げに使用した木はアセチル化処理された高耐久化木材である「アコヤ」で、50年の対腐朽菌耐用年数がメーカー保証されている。このパネルは、従来の代替品と比較して354トンものCO2排出量を削減できる。

外皮には木もふんだんに使用している(写真:V&A Waterfront)
外皮には木もふんだんに使用している(写真:V&A Waterfront)
[画像のクリックで拡大表示]