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 2012年11月から始まったこのコラムも今回でちょうど10周年、100号の節目を迎える。これまで弊社の海外竣工建築プロジェクトを中心に紹介してきたが、今回は最近注目が集まっている業務を紹介したい。「Foresight (フォーサイト)」業務だ。直訳すれば、“洞察力、展望”といった意味である。

 現代社会では、経済や政治、気候変動対策など将来の見通しが難しい。建築プロジェクトのコンセプトづくりの他、製品開発、企業ビジョンなどにおいて、どこを目指したらよいのか、迷っておられる方々が増えているようだ。

 そんなときは、フォーサイトチームの出番だ。将来ビジョンを発注者と共に考えたり、デザイン戦略を練ったりといった、さまざまなサービスを提供している。直近では、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で連日メディア取材を受けていたWHO(世界保健機関)の将来展望に関するリポート作成を行った。

 自然災害、パンデミック、戦争や経済減速……。 VUCA(ブーカ)と略される、 “変化が激しく、不確実で、複雑かつ見通しが利かない”といわれる現代社会において、建物を建てたり、新製品の開発に投資したりすることは、非常にリスクが高いとみる企業も少なくない。環境配慮、脱炭素、コンプライアンス、特に若い世代における消費行動の変化など、考慮しなくてはならない要素はここ数年で各段に増えている。

例えば「道路」をみても、高齢化社会や自動配送などさまざま社会課題が絡み合っていることが想像できる。解決策の決め手が難しい社会になっている(写真:Arup、autonomous delivery robot (c)Starship Technologies)
例えば「道路」をみても、高齢化社会や自動配送などさまざま社会課題が絡み合っていることが想像できる。解決策の決め手が難しい社会になっている(写真:Arup、autonomous delivery robot (c)Starship Technologies)
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 そのような悩みに対して、発注者と共に光を見いだそうとする専門家集団「フォーサイト」という名のチームが弊社のロンドン事務所を中心に活躍しており、世界中で引き合いが増えている。チームは建築関係の実務経験者の他、化学やプロダクトデザインなどさまざまな経験者から構成されている。

 フォーサイトが行う主な業務の1つは、「シナリオプランニング」と呼ばれるものだ。これは未来予測や販売額試算などの需要予測ではない。またテンプレートや模範解答はない。「常に変化する世の中において、私たちが本当に知っておくべきことは何か?」「理想的な未来に影響を与えるものは何で、そのために今日正しい決断を下すためには、何を知っておけばよいのか?」という会話から始まる。「自分事としての将来対策」を考える一連の作業である。

フォーサイトの業務は大きく分けると4つで、「シナリオプランニング」「戦略とビジョン策定」「市場分析やトレンド調査」「デザインとイノベーション」だ(資料:Arup)
フォーサイトの業務は大きく分けると4つで、「シナリオプランニング」「戦略とビジョン策定」「市場分析やトレンド調査」「デザインとイノベーション」だ(資料:Arup)
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 将来のシナリオを考える、というと、企業のタスクフォースや、各グループの代表者が集まってアイデアを出し合ってみるものの、その後はあまり活用されずに放置されているようなイメージを持つかもしれない。

 あまり活用されないとしたら理由は何か。具体的なデータや裏付けが欠けていて出来上がったストーリーに懐疑的な部分があるのかもしれない。あるいは、そのストーリーから何をどのように展開すればよいのかが不明ということもあるかもしれない。

 フォーサイトのチームが提供するシナリオプランニングでは、「説得力のあるストーリー」を重視している。その手法は、弊社がこれまでに集めてきた膨大なデータと、それをカテゴリーやフレームワークごとに整理・分類したツールを活用することだ。また、グローバルネットワークを駆使して世界のトレンド(流行、というよりは、兆し情報)を集めた中から企業や製品などプロジェクトに合わせた最優先事項をリストアップする方法だ。

シナリオプランニングにおいて、具体的な統計データを活用した例。これは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前と後の実質国内総生産(GDP)成長率の予測を比較したグラフ。希望的な観測を行うのではなく、公開されている統計データなども積極的に用いて、シナリオを組み立てる(資料:World Health Organization)
シナリオプランニングにおいて、具体的な統計データを活用した例。これは、新型コロナウイルス感染症のパンデミック前と後の実質国内総生産(GDP)成長率の予測を比較したグラフ。希望的な観測を行うのではなく、公開されている統計データなども積極的に用いて、シナリオを組み立てる(資料:World Health Organization)
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 また、シナリオは1つに限らず、4つ程度を想定する企業が多いようだ。そして、作ったら終わりではなく、見直しをかけるタイミングやトリガーなどを決めておくのもこの作業の重要な部分である。