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 大手ビール会社の決算発表があった2018年2月16日、テレビでは大手各社の業績が好調であることを伝えるニュースが流れていた。アナウンサーは各社の営業利益を比較していたが、キリンホールディングスとアサヒグループホールディングスについては営業利益ではなく「事業利益」という言い方をしていた。

 アナウンサーは何の説明もなく当たり前のように「事業利益」という言葉を使っていたが、会計士である私の頭の中には「?」が並んでいた。事業利益が一体何を指す利益なのか、さっぱり分からなかったからだ。

 翌日の新聞もビール大手各社の好業績を伝えていたが、そこでもやはり「事業利益」という言葉がほとんど何の断りもなしに使われていた。説明らしきものはわずかに「(営業利益も事業利益も)どちらも本業のもうけを示す利益」、それに「キリンとアサヒの両社はIFRS(国際会計基準)を使っている」という記述だけだ。「事業利益」とは一体何なのだろうか。

両社が事業利益を独自に定義した理由とは

 そこでよくよく調べてみると「事業利益」に明確な定義はなく、キリンやアサヒが独自に定義して使っているだけの言葉だということが分かった。

 結論から言うと、キリンとアサヒが使っている事業利益は、日本の会計基準(以下、日本基準)における営業利益に等しい。したがって、新聞にあった「本業のもうけを示す利益」という言い方は正しいし、日本基準を採用する他社の営業利益と比較することにも妥当性がある。

 ならば、なぜ「営業利益」と言わないのか。それはキリンとアサヒがIFRSを採用していることと密接に関係がある。アサヒは2016年12月期から、キリンはこの2017年12月期から、それぞれIFRSを任意適用している。

 非常に単純な言い方をすれば、IFRSにおける営業利益は日本基準の営業利益とは異なる。だから両社とも、日本基準を採用する他のビール会社と比較しやすくするために、IFRSの営業利益とは別に、独自に計算した「事業利益」を開示しているのである。

 これはIFRSの1つの特徴でもある。IFRSでは必要に応じて、損益計算書における表示項目を追加することができるのだ。

 実際、アサヒは決算短信の注記で、「事業利益は、売上収益から売上原価並びに販売費及び一般管理費を控除した恒常的な事業の業績を測る利益指標です。IFRSで定義されている指標ではありませんが、財務諸表利用者にとって有用であると考え自主的に開示しております」と注記している(アサヒの2017年12月期決算短信:PDF)。この前段から、事業利益が日本基準の営業利益と同じであることが分かり、後段から独自判断により追加したものであることが分かる。

 キリンの事業利益も、全く同じ定義であることが同社の決算短信の注記から分かる(キリンの2017年12月期決算短信:PDF)。キリンとアサヒの事業利益の定義が全く同じなのは、おそらく、先にIFRSを採用したアサヒの定義に同業種のキリンが合わせた結果だろう。ただし、一般的には事業利益の定義が常に同じである保証は全くないし、事業利益という名称を使っているとも限らない。例えば、IFRSを採用するブラザー工業は、日本基準の営業利益に相当する同種の利益を「事業セグメント利益」と呼んでいる。