ドライブレコーダー設置の目的は長年、事故などの際に「何が起きたのかを事後に客観的に把握する装置」という位置付けであった。同様の機能を持つ製品としては、業務車両に多く搭載されている「タコグラフ」、先進的な車両に搭載されている「イベント・データ・レコーダー」がある。
現在のドライブレコーダーの原型と呼ばれるものは2003年に登場した。まず商用車に搭載され、その後は自家用車にも搭載が進んだ。国土交通省が20年度に実施したアンケートによると、自家用車へのドライブレコーダー搭載率は53.8%だという。
近年は乗車していない間の防犯装置としての機能も強化されてきた。今回は22年2月に発売されたコムテック製のドライブレコーダー「ZDR036」を分解し調査する(図1、表1)。
カメラ2つとディスプレー1つの3ユニット構成
ドライブレコーダーは、現在地をより精密に記録するため、複数種類の測位衛星の電波を受信できるものが多い。本機の場合、米国のGPSに加え、日本の「みちびき」、ロシアの「GLONASS」の位置情報を取得可能である。取扱説明書によると位置検出精度の誤差は約50mだという。
車両の前方・後方の記録を取得できるよう、車両のフロントガラスとリアガラスにカメラを2台装着するタイプが増えている。本機は前方カメラユニット、後方カメラユニット、ディスプレーユニットの3つのユニットで構成されている(図2)。従来機種の「ZDR026」ではディスプレーユニットと前方カメラユニットが一体の構造だったが、ZDR036では分割されて、別ユニットになった。
撮影画像は、ディスプレーユニット本体に挿入したMicroSDカードに記録される。容量がいっぱいになると、エンドレステープの要領で、古いファイルから上書きされていく。ファイルは30秒単位に区切られており、事故が発生した場合、衝撃検知の前後30秒、合計1分の動画記録を上書きされない領域に保存する機能を有する。また駐車中の監視機能もあり、人が近づいてきたり衝撃を検知したりすると前後30秒の動画を記録する。
駐車時の人検知レーダーはソシオネクスト製
3つのユニットをそれぞれ分解していく(図3)。まず前方カメラユニットには、3枚の基板が搭載されていた。イメージセンサーを実装した前方カメラユニット基板と、レーダー基板、そしてGPSアンテナ基板である。
前方カメラユニット基板のA面には、イメージセンサーやバックアップ用の1次電池のほか、伊仏合弁STMicroelectronics(STマイクロエレクトロニクス)のマイクロコントローラー「STM32G070KB」を搭載。B面には、ディスプレーユニットに映像を送信するため、米Techpoint(テックポイント)製の映像信号処理および映像伝送機能を備えたIC「TP3816」を搭載している(図4)。
レーダー基板のA面にはソシオネクスト製の24GHzレーダー「SC1232AR3」を搭載し、B面には前方カメラユニット基板とつなぐためのコネクターを実装している(図5)。
このレーダーは、車両内に乗員がいない駐車中に、車へ近づいてくる人を検知するためのものである。ソシオネクストのWebサイトの商品情報によると検知範囲は約8mだという。エンジンが止まっている間もレーダーで見張りを続けるので消費電力が気になるが、同社Webサイトでは、レーダーの消費電力は平均約0.5mWとする。
GPSアンテナ基板のA面には、基板より少し小さい程度の、比較的大型のアンテナが搭載されている。B面には測位信号受信用のスイスu-blox製GNSS(全地球測位システム)モジュール「UBX-M8030-KT」が搭載されているほか、前方カメラユニット基板に取り付けるためのコネクターが実装されている(図6)。
後方カメラユニットは前方カメラユニットよりも小さく、搭載する基板は1枚だけである。後方カメラユニット基板のA面にはイメージセンサーが、B面には前方カメラユニット基板と同様にTechpointのTP3816が搭載されている(図7)。
前方カメラと後方カメラに使われているレンズは、同じもののようだ(図8)。イメージセンサーも共通で、どちらもソニーセミコンダクタソリューションズ製とみられる。