先手必勝の新材料
CNFの世界的権威が日本に2人いるということですね。ということは、日本が世界をリードしているということでしょうか。
仙波氏:その通りです。研究だけではなく、実用化に向けた技術開発も現在、日本が最も進んでいます。CNFの研究を進めている所はいろいろあり、北欧はその1つです。しかし、北欧にはCNFを樹脂に混ぜるという発想があまりないようです。
日本の環境も優位に作用していると思います。日本は比較的狭い地域に産業が集積しています。パルプも化学も自動車も、産業の上流から下流まで互いに近い所にあります。従って、いろいろな企業が協力しやすい環境にあり、技術開発が促進されます。もっと平たく言えば、自動車メーカーからのニーズをいち早く捉え、それを実現するための技術開発に早い段階から取り組める、ということです。
ビジネスチャンスの大きさは?
仙波氏:経済産業省が「2030年に国内だけで1兆円市場に成長する」と試算しています。これは日本市場だけですし、世界市場を視界に入れると、先述の環境規制に関する今後の強化次第でもっと期待できるかもしれません。
商品化を考えた場合に、最も量を稼ぐと思われるのは樹脂の補強材、すなわち構造材です。私たちが手掛けているプロジェクトでは、自動車での実用化を狙っています。量産車に使われれば量を稼ぐことができるからです。
しかし、自動車を狙うのは、ビジネスチャンスが大きいからだけではありません。実力を磨くという意味合いもあります。自動車分野では、性能に関してもコストに関しても乗り越えるべきハードルが高い。従って、自動車分野の要求水準を満たせれば、他のどの分野でも使える実力を身に付けることができると考えています。なお、環境省のプロジェクトには家電製品や建設資材分野のプロジェクトもあります。
具体的に、どのような製品での実用化が考えられるのでしょうか。
仙波氏:自動車分野では、インテークマニホールドやドアトリム、中空ボード、エンジンカバーなどの実用化が想定されています。面白いところでは、めっき性能の向上にCNFを使う事例が出てきました。ポリアミド(PA)にCNFを添加すると、強度が増すだけではなく、めっきが良く付くことが分かりました。現行のエッチング処理やクロム酸処理を省けるだけではなく、成形品の耐衝撃性や曲げ弾性率も飛躍的に向上します。
構造材の場合、環境負荷軽減と軽量化の両立を主眼に、将来的なコスト削減を期待する開発が目立ちます。しかし、既述の通り、CNFには多彩な性能があり、未発見の性能もあります。そのため、このめっきのようにCNFの新たな性能を生かし、付加価値をより一層高める開発も進むことでしょう。
構造材の最新動向では、矢野先生の主導の下、星光PMCがCNF強化樹脂の商業プラントを造り、2018年1月から生産・製品出荷を開始しました。これが世界初のCNF強化樹脂の市場投入となります。樹脂にCNFを添加した材料が市販されたのですから、今後はCNF強化樹脂を入手しやすくなり、実用化に向けた応用研究がさらに加速することでしょう。
CNFは環境時代の追い風を受けた、カーボンと並んで重要な次世代材料です。材料転換の設計には実用化までに比較的時間がかかるという特徴があります。CNFには特有の使いこなしの難しさもあり、しかるべきノウハウも必要です。しかし、環境規制は今後も強まりこそすれ、緩むことはありません。今から手掛けておかなければならない材料であると考えて間違いないでしょう。