設計・試作段階で発生する熱問題が増加していると、多くの方が肌で感じていると思う。実際、製品の熱設計や対策などのコンサルティングを主業務にしている当社では、こうした案件が急増している。なぜ問題が増えてきたのか、どうすれば対処できるのか、考えてみたい。
熱で起こる不具合の変化
筆者が熱設計を始めた頃、熱設計は信頼性を担保するために行う「当たり前品質」の代表格だった。できていて当たり前で、何か不具合を起こすと叱られる割の合わない仕事だった。
しかし、最近の熱問題は「動かない」「機能・性能を満足しない」「異常に温度が高い」など緊急性を要するものが目立つ。熱に弱いセンサー部品なども増え、これらが許容温度を超えてしまう事例も多い。
出荷後に顧客の下で熱問題が発生した場合、リコールにつながる危険がある。当然このような熱問題は出荷前に潰し込まなければならない。
なぜ熱問題は設計初期の段階で潰せないのか?
考えてみれば熱設計は昔から「後出し」だった。熱は身近な現象のため、感覚的に捉えられるが、計算によって定量的に予測しようとすると極端に難しくなる。デザインレビューでは、熱に関してはたくさんの対策案が出る。身近なので感覚で言いやすいのだが、「その対策で何℃下がるの?」と聞くと黙り込んでしまう。「とりあえずシミュレーションしてみよう」となるが、意に沿わない結果が出るとシミュレーションを疑う。
感覚で設計して試作し、だめならそこで初めて対策を考える。こうした熱対策型の熱設計が定着した。昔のように余裕を持った設計をしていれば、「試作したら不具合が見つかった」というような“試作NG”の確率も低く、この手法は効率的だったといえなくはない。しかし、昨今の限界設計では、後戻りが大きすぎて非効率である。
熱対策工数が増え続ける背景① 「発熱体や放熱構造の変化」
製品の小型化や高性能化は普遍的な要求である。これらの要求に応えることにより、熱対策が難しくなる方向へ、発熱体や放熱構造は変わり続けてきた。具体的には下記の変化が継続的に起きてきた。
(1)SoC、IPM*1など特定半導体デバイスへの機能集中に伴う発熱の集中化(図1、図2)
(2)部品の小型化による放熱経路の変化(表1)
・これにより、部品の熱は直接空気に逃げず、まず基板に逃げる
(3)機器の小型化による電力密度の増加
またスマートフォン(スマホ)を代表とするポータブル機器が急激に増え、放熱構造が昔と変わってしまったことも、要因の1つである。
従来の通風型機器は、流体(空気)の移動に熱を載せて運ばせる考え方である(図3)。この方式では、回路基板の設計者は部品の熱を空気に逃がすことだけを考え、筐体(きょうたい)の設計者は温まった空気を早く外に吐き出すことだけを考えれば設計は成り立った。分界点がはっきりしていたのである。
一方、最近増えている筐体伝導放熱型機器は、部品や基板を筐体に接触させて、熱伝導で筐体に逃がす構造である(図4)。回路基板と筐体との緻密な接触や位置の管理が重要になる。基板と筐体の一体的な熱設計が不可欠だ。