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AIソリューションの未来は圧倒的に明るい

AI研究の歴史の光と影を知る研究者の言葉として重みを感じます。AIに期待しすぎるのは禁物ということでしょうか。

岡本氏: AIをどのように捉えるかによります。AIを使ったソリューションで価値を生み出すという意味のAIであれば、未来は圧倒的に明るいと言えます。富士通のようにあらゆる業種に顧客を持ち、さまざまなソリューションを研究している企業のAIは大きく期待されていると思います。他のものと融合して、付加価値をもたらすAIは、今後も長く存続していくでしょう。一方で、AI単体のサービスビジネスは、まだそれほど大きくなっていないようです。

 AIが一過性ではないことを示す1つの証拠として、倫理に関する研究が進んでいる点が挙げられます。富士通は2019年3月にAI倫理を含む価値観をまとめた「富士通グループAIコミットメント」を策定し、同年9月には「AI倫理外部委員会」を設立しました。同委員会は、産業技術総合研究所人工知能研究センター長の辻井潤一先生(委員長)をはじめ、さまざまな分野の有識者で構成しています。第2次AIの時には、AIの社会実装に関してAI倫理の議論がここまで及んでいませんでした。こうした議論が出てきたのは、すなわち、AIの社会実装が大きく進む可能性が高いという証しでしょう。

富士通のAIコミットメントの骨子
富士通のAIコミットメントの骨子
(作成:日経クロステック)
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データ収集と学習モデルの最適変化が鍵

AIを業務に導入しようとする企業が増える一方で、期待したほど使えないという声も上がっていると聞きます。その理由は何でしょうか。

岡本氏:2つの理由が考えられます。1つは、学習データの問題です。現在注目されているディープラーニングで、例えば画像から良品か不良品かを調べようとすると、大量の画像データが必要です。良品と不良品の双方の画像データをたくさん集めなければなりません。しかも、各画像に「これは良品」「これは不良品」とラベルを付ける作業も必要です。こうしなければ実用に耐え得る精度が出ないのです。こうした高い精度を得られるデータをそろえられないと、AIをうまく活用できないのです。

 ただし、この点については、少ないデータからでも高い精度が得られるように学習する技術や、自動的にデータを生成して学習させる技術の開発が進んでいます。加えて、効率的なデータの集め方のノウハウを我々は持っています。学習データを用意するのは結構なコストがかかります。そこで、例えば同じ1000枚の画像データを集める場合でも、識別がうまくできる可能性の高い効率的な学習データだけを集めれば、精度の向上とコスト抑制を両立させることが可能です。

(写真:日経クロステック)
(写真:日経クロステック)
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確かに、データは大量にストックしているけれど、ノイズが乗った状態でそのままでは使えず、活用できるデータに整える必要があるという話はよく聞きます。

岡本氏:もう1つは、AIの運用に関する問題です。学習により作られたモデル(学習モデル)を固定してしまうと、実務にうまく適応できないケースがあります。例えば、企業のリスク審査です。企業のリスクは、いろいろな要因で変化していきます。そのため、これまでのデータで作ったリスク審査の学習モデルが、さまざまな外界の変化によってうまく働かなくなる可能性があるのです。

 従って、例えば良品と不良品の判定など、データの特性が変わらない領域はディープラーニングがうまく適応しますが、データの特性が変わる領域では機能しなくなるときがあるのです。この場合は、外界の変化に応じて学習モデルを最適化し続ける必要があります。企業のリスク審査の他、工場の照明を蛍光灯からLEDに取り換えたり、カメラの精度を上げたりすると画像データの特性が変わってしまうケースがあるのです。

 このようにAIは運用がとても重要なのですが、これを知らない企業では「AIは使えない」と感じてしまうでしょう。

岡本 青史 氏(おかもと・せいし)
富士通研究所 フェロー 人工知能研究所 所長
岡本 青史 氏(おかもと・せいし) 1991年株式会社富士通研究所入社。以来、機械学習、推論、自然言語処理、知識検索などの人工知能の研究開発に従事。
2011年より3年間は、富士通株式会社にて、ビッグデータ新規事業開拓およびデータサイエンティスト育成業務に従事。
科学研究費補助金 基盤A 研究代表者(2005年~2008年)
東京大学大学院情報理工学系研究科客員教授(2008年~2013年)。
JST ERATOパネルメンバー。(2019年)
博士(理学)