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「生分解性プラスチック」が注目を集めている。生態系を破壊しかねない「マイクロプラスチック」問題を解決する切り札とされている。なぜ生分解性プラスチックが求められるのか。製造業界に何ができるのか。「日経クロステックラーニング」の講座「生分解性プラスチックによるものづくり革命」の講師である小松技術士事務所所長・ものづくり名人の小松道男氏に聞いた。(聞き手は高市 清治)

小松技術士事務所所長・ものづくり名人の小松道男氏(写真:栗原克己)
小松技術士事務所所長・ものづくり名人の小松道男氏(写真:栗原克己)
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「生分解性プラスチック」とは何ですか。

小松氏:土中など微生物がいる環境で、微生物の働きによって低分子化合物に分解されるプラスチックです。最終的には水と二酸化炭素(CO2)に分解されるので、自然界に悪影響を与えません。一般的にはデンプンやサトウキビの搾り汁、動物の排出物のような「バイオマス」(動植物から生まれた、再利用できる有機性の資源)を素材としています。最近では石油や天然ガスを素材とする生分解性プラスチックも実用化され始めています。

 これに対して一般的に普及しているプラスチックは石油や天然ガスから作られ、土に埋めても生分解されません。恐らく100年以上の長期間、高分子化合物のまま残ります。

マイクロプラスチックは生態系に悪影響

なぜ今、生分解性プラスチックが求められているのですか。

小松氏:石油や天然ガスから作られ、自然には分解されないプラスチックが自然界に悪影響を与えると分かってきたからです。

 実用的なプラスチックの歴史はたかだか70年程度です。軽くて、軟らかく、強度も耐久性も高く(植物や木材、布などと比較して)、安価で大量生産できるプラスチックは大変、重宝されました。廃棄する際は当初、土に埋めていました。しかし分解されないわけですから埋める場所がなくなってしまいます。そこで海に埋め始めました。日本でもゴミの埋め立て地である「夢の島」が知られていますよね。

 それも限界に達しました。そこで今度は燃やして処分することになったわけです。ところが燃やすとプラスチックは大量の二酸化炭素を発します。この二酸化炭素には、地球の温暖化を促す効果があると明らかになってきました。

 埋めてもだめ、燃やしてもだめ。さらに最近、判明したのが「海に捨ててもだめ」という点です。

 約70年前から製造されていたプラスチックが、海に捨てられたり、川から流出したりしている現実が認識されてきました。海岸線に発泡スチロールの箱やペットボトルが打ち上げられているのを見ますよね。でも、当初は分解されてなくなっていると考えられていました。最近になって分かってきたのは、海に漂うプラスチックは決して分解されていないという事実です。直径100μm、あるいは1μmなど、分解されたのではなく極めて小さいサイズで残存していたのです。

 この極小サイズのプラスチックの粒が「マイクロプラスチック」です。これが生態系に致命的な悪影響を与えると懸念され始めたのです。

どのような悪影響を与えるのでしょうか。

小松氏:発がん性物質などを吸着してマグロやカツオといった魚類の体内に蓄積され、食物連鎖で人類へリターンする危険性があるのです。

 マイクロプラスチック自体は人体に入っても通常、そのまま排出されます。それだけで有害なわけではありません。問題はマイクロプラスチックが海中の化学物質を吸着しやすい特徴を持つ点です。

 場所によって異なりますが、海の水はさまざまな化学物質を含んでいます。日本に限らず経済成長を遂げた国の近海では、発がん性物質として知られる「ポリ塩化ビフェニル」(PCB)や人体に有害な「有機リン化合物」などが含まれている場合があります。

 「含まれる」とはいっても海は広大ですから希釈されていて、工場地帯の港湾でもない限り通常は人体に影響を与えるような濃度ではありません。ところがマイクロプラスチックに吸着されると高濃度になります。分かりやすい事例ですと、海中のPCBの平均濃度を1とすると、マイクロプラスチックには100万倍もの濃度で吸着されています。

 石油系プラスチックが元来含有していた微量な重金属も小魚や魚介類などに蓄積されます。これらがより大形のマグロやカツオといった魚や鳥類などに捕食されて有害物質が濃縮されていきます。最終的に人間の体内に入る危険性が指摘されています。

 これがマイクロプラスチックの海洋汚染問題です。以前、ストローが鼻に刺さったウミガメの写真が大きな注目を集めました。しかし、あの写真はマイクロプラスチック問題の本質を伝えてはいないのは、ここまでの説明でご理解頂けたかと思います。

 欧州のプラスチック問題を調査・研究している団体によると、全世界で生産されているプラスチックは約2億8000万t/年。このうち、7.1%に 当たる約2000万tが海洋に流出していると考えられています。このペースのままだと、2050年には海中に生存する魚介類よりマイクロプラスチックの量の方が大きくなるとの予想さえあります。それほどまで大量になったマイクロプラスチックが、生態系にどれほどの悪影響を与えるかは、推して測るべしでしょう。